自殺対策基本法の制定から今年で20年。「自殺は追い込まれた末の死」であり、防ぐことができる社会的な問題であると位置付け、国や自治体が総合的な対策を推進してきた。1995年から19年連続で自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)が全国一高かった秋田県では、国に先駆け、民間団体、秋田大学、県や市町村の連携で命を守る取り組みを展開し、自殺者数を地道に減らしている。民・学・官で命を守る「秋田モデル」のいまをリポートする。 ■人と人をつなぐ地域づくり 「ここはあずましいな」「『あずましい』ってどういう意味?」「(津軽弁で)居心地がいいってこと」……。 毎週火曜日の昼下がり、町民が三々五々と集まり、世間話に花を咲かせる。秋田県藤里町で開かれているコーヒーサロン「よってたもれ」だ。地元の方言で「寄っていってください」を意味する。世界自然遺産・白神山地を挟み青森県と接しているからか、言葉に津軽弁の影響もうかがえる。人口2615人で高齢化率52・81%(ともに9月1日現在)だがブナ原生林が続く広大な町である。 会場は図書室がある町の公共施設で近くに役場やスーパーがある。住民団体「心といのちを考える会」が2003年から続けている活動で午後1時半から同4時までコーヒーやお茶を提供し、和やかに語らう。だが、メンバーは来場者の微妙な変化を見逃さない。 「最近、あの人の元気がなくて心配……」。気になる住民がいれば町の保健師につなぐ。保健師は困りごとに丁寧に耳を傾け、必要に応じて行政や弁護士、医療機関へとつないでいる。 会員38人が4班に分かれてサロンを担当。昨年は61回開催し、延べ659人が参加した。会員の夏井アヤ子さん(82)は「人の話を聞くのが好き。ここをよりどころにしてくれる人がいるので私の生きがい」と語る。 * 県内でも自殺率が高かった藤里町。町民の間でも意識されるようになる一方で「自殺した人はもともと存在しなかった人」とされ、つらい気持ちや悩みを打ち明けにくい空気が漂っていたという。 「自殺という亡くなり方をした人のご遺族にどんな言葉を掛ければいいか宗教者としても悩んだ」。地元寺院の住職、袴田俊英氏(68)は2000年に住民有志と「心といのちを考える会」を設立。町の保健師や秋田大学医学部の研究者と連携し、地域ぐるみの自殺対策を展開してきた。02年から3年間、県の自殺対策モデル事業にもなり、04年には17年ぶりに町の自殺者数がゼロに。事件や災害などがもたらす心理的影響で「反動」が見られることもあり同会は、町民に自殺対策や心の健康づくりに関する情報や知識をアップデートしてもらうため、セミナーを継続的に開催。昨年から自殺者は出ていない。 今年3月まで同大学大学院で准教授を務め、町の自殺対策に関わってきた佐々木久長氏(66)は「人と人とがつながり、孤立させない地域づくりが住民の命を守る」と指摘する。 * 自殺対策基本法では全ての県、市町村で地域自殺対策計画の策定が義務付けられている。今後、第3期計画を策定するに当たり藤里町の保健師、近藤智里氏は「地域の状況を庁内で横断的に共有し、伴走支援に力を入れる」と説明。高齢化の加速で運転免許を返納する人も増え、サロン活動への住民参加が課題になることから「町内7地区を巡回する形にするか、各地区で担い手を育成するか考えていきたい」としている。