「そば」は、古くから日本人に親しまれてきた食文化を代表する味覚です。その醍醐味は麺をすするだけでなく、食後の締めくくりに提供される「そば湯」まで味わい尽くすことにあります。そば湯の奥深い楽しみ方について、特定非営利活動法人「江戸ソバリエ協会」理事長のほしひかるさんに聞きました。
そばは、本格的には中国の南宋から伝わり、まず京都に入り、その後、江戸に広まりました。当初は、そばをゆでた湯、いわゆる残り湯をそのまま飲んでいたと考えられます。
その後、江戸時代中期ごろから、カツオだしを使ったつゆが普及しました。うま味が飛躍的に向上したことで、残ったつゆをそば湯で割る「そば湯割り」が庶民の間で爆発的に広まりました。かつて京都ではみそベースの「垂れみそ」で食べていたため、今の私たちが楽しむようなそば湯のスタイルは、まさに「江戸の食文化」が生んだ粋な発明だったのです。
そばは、タンパク質や炭水化物、脂質、ミネラル、ビタミンといった五大栄養素をバランスよく含む希少な食材です。特に血管を丈夫にする成分のルチンも含まれています。ただし、こうした栄養成分の多くは、ゆでる過程で湯の中に流れ出てしまいます。
つまり、そば湯を飲まないということは、そばの栄養の半分を捨ててしまうようなものなのです。そば湯を最後の一滴まで楽しむことは、栄養を残さず体に取り入れる、理にかなった健康法といえます。
唯一そばに欠けているビタミンCを、薬味のネギや大根おろしで補うというのも、先人の驚くべき知恵といえるでしょう。
■つゆは濃さを調整、食後の余韻感じる
そば湯は、基本的には残ったつゆに注いで楽しむのが一般的です。好みの濃さに調整することが大切で、つゆは少しずつ加えるとよいでしょう。塩分を取り過ぎないよう、やや薄めにするくらいが望ましいです。
また、最初にそば湯だけを味わい、そば本来の香りや甘み、とろみを感じてから、つゆを加える楽しみ方もあります。最近では、そば粉を加えて作る濃いそば湯もあり、とろみが増してポタージュのような味わいになります。家庭でも、そば粉を水でよく溶いてから煮立てれば再現できます。
お好みで、わさびやしょうが、七味唐辛子などを少量加えると、“味変”して飽きにくくなります【イラスト左上参照】。後味をさっぱりしたいときは、ゆずやすだちを加えてもよいでしょう。
そば湯は本来、食後にゆっくり味わうものです。そばを食べた後に、その余韻を感じながら、食事や時間を振り返るひとときを楽しむ--それがそば湯の大きな魅力といえます。
■「二八」は親しまれる黄金比。冷水で締めてコシある麺に
自宅でおいしくそばをゆで、そば湯を楽しむこつを紹介します。
まずそば粉とつなぎの小麦粉の関係で見ると、そばのおいしさは香りに大きく左右されるため、そば粉の割合が高いほど風味がよいといえます。乾麺や生麺を選ぶ際は、原材料表示を確認し、そば粉が先に記載されているものを選ぶのがポイントです。表示は多い順に書かれているため、そば粉が多いかどうかの目安になります。
一般に「十割そば(そば粉100%)」や「二八そば(そば粉80%・小麦粉20%)」は、そば粉の割合が高い分類に入ります。二八そばは、職人の間で長く親しまれてきたバランスで、いわば黄金比とされています。
乾麺は表示されているゆで時間を参考に、生麺は商品によって異なるため、秒数を確認するのが基本です。お湯はできるだけ多い方がよいですが、その分、そば湯の味は薄くなります。
ゆで方は、まずたっぷりの水をしっかり沸騰させてから麺を入れます【イラスト参照】。麺はパラパラとほぐしながら入れることが大切で、くっつかないようにします。ゆで上がったら流水で洗い、ぬめりを取ります。その後、冷たい水や氷水で締めると、コシのある麺に仕上がります。温かいそばで食べる場合も、軽く洗うことで食感がよくなります。
また乾麺は一度、水に浸してからゆでると硬さが抜け、生麺に近い食感になります。





