誤った裁判で無実の罪を着せられてしまった冤罪被害者を救済するため、確定した裁判をやり直す仕組みとして「再審制度」がある。ただ、再審が始まるまでにはあまりにも長い時間がかかるため、専門家や冤罪被害者から批判されてきた。2024年に袴田巌さんが死刑判決から44年かかって再審無罪となったことを契機に、制度見直しへ議論が本格化し、今国会での論戦の行方に注目が集まっている。そもそも再審とはどういうものか解説する。 ■人権保障の“最終手段”/請求審と公判の2段階 罪の有無や刑罰を決める刑事裁判で有罪判決が確定すると、その結果を覆すことは難しい。しかし、裁判に重大な誤りがあった場合はどうなるのか。 日本では、犯罪の疑いがある人が犯罪行為をしたかどうか公正に判断するため、▽地方裁判所(または簡易裁判所、家庭裁判所)▽高等裁判所▽最高裁判所--の3段階において裁判を受けられる「三審制」を採用している。 ただ、それでも判決に誤りが生じる可能性は絶対にないとは言い切れない。犯罪を証明する検察官は、捜査機関が集めた多くの証拠を必要な範囲で法廷に提出し、裁判官もその証拠の中で判断しているからだ。誤りはあってはならないが、誤判を完全に防ぐことはできていない。 そこで、冤罪被害者を救済するため、最終手段となるのが「再審制度」だ。冤罪は国家による最大の人権侵害の一つであり、人権保障は憲法の最優先の課題である。 再審を請求するには、無罪を言い渡すべき「明らかな証拠」が必要となる。手続きについては、①明らかな証拠があるかどうかを審理・判断する「再審請求審」②再審開始決定が確定した事件について、法廷で有罪・無罪を判断する「再審公判」--の2段階にわたっている【イラスト参照】。 ■(直面する二つの課題) ■新証拠開示に高いハードル/検察の抗告で審理長期化も 再審の手続きについては刑事訴訟法で規定を定めているが、わずか19の条文にとどまっており、具体的な進め方は裁判官の裁量に委ねられている。裁判官によって取り組みが積極的だったり消極的だったりする「再審格差」が問題視されている。 実際、冤罪被害者が再審請求の手続きを進めるに当たって、大きく二つの課題に直面する。 一つは、再審請求に必要な新たな証拠を見つけるハードルの高さだ。冤罪被害者や弁護士が独自に証拠を探すのは難しい。一方、検察はこれまでの裁判に提出していない証拠を新たに開示するという規定はなく、裁判官が裁量で証拠の開示を要請しても、検察が応じないことがある。ただ、開示されたことで再審開始につながる証拠が発見されたケースは少なくない。 もう一つは、再審請求審で裁判所が再審開始を決定しても、検察が待ったをかける不服申し立て(抗告)があることだ。抗告について政府は「違法、不当な再審開始決定があった場合に、法的安定性の見地からこれを是正する」と強調してきた。ただ、検察が抗告を繰り返すことで再審公判が始まるまでに長期を費やすことは珍しくなく、迅速な救済につながっていない。 戦後の再審で死刑囚が無罪になった事件【表参照】を見ると、事件発生から無罪判決が言い渡されるまでに約30年以上かかった。中でも、袴田さんの事件は事件発生から58年がたち、死刑判決が確定して最初の再審請求からも40年以上に及んだ。 冤罪被害者を支援する弁護士の間では「再審は人権救済の制度として問題が多過ぎる」との批判が強い。再審の規定は1948年に刑事訴訟法ができて以来、78年間で一度も改正されておらず、人権保障の措置として十分機能するよう規定を整える法改正が求められている。 ■法改正へ国会で論戦/政府、野党両案とも審議 今国会では、再審制度の見直しに向けて刑事訴訟法改正案が26日に衆院で審議入りした。政府案と、中道改革連合など野党3党による案が並行して審議されており、野党案には公明党も賛同している。 両案は、証拠開示と検察の抗告の二つを巡って大きな違いがある。 証拠の開示については、政府案は裁判所が開示を検察に命じる規定を設けるものの、対象範囲を「相当と認めるとき」と限定。野党案は「相当でないと認めるときを除き」として、幅広い開示につながる内容だ。 抗告では、政府案は「原則禁止」とした上で、「十分な根拠がある場合」に限り例外的に認めることとした。野党案は、政府案では抗告乱用の余地が残るとして「全面禁止」を定める。 ■中立公の部会で袴田さん姉訴え 中道、立憲民主、公明の3党は26日、衆院第1議員会館で合同法務部会を開き、袴田巌さんの姉である秀子さんと、袴田事件の弁護団事務局長の小川秀世弁護士から話を聴いた。 席上、秀子さんは「再審の扉は開かずの扉と言い、(現行法には)不備がある。巌の身に起きたことが、この世界から、冤罪をなくすことにつながるように切に願っている」と訴えた。