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(東日本大震災14年5カ月)復興の今を伝える「浪板虎舞」/よみがえる古里の記憶/宮城・気仙沼市

公明新聞2025年8月11日付 3面

 リアスの海に抱かれた国内屈指の水産都市、宮城県気仙沼市。湾の奥にある浪板地区には江戸時代から伝わる郷土芸能「浪板虎舞」が今に息づく。同地区は東日本大震災の大津波と火災に襲われ、20人を超える住民が犠牲になった。「虎は千里行って千里帰る」と漁の安全や大漁への願いが込められた虎舞は震災後、住民の心を結び、元気を届けてきた。虎舞と共に震災を乗り越え、復興へ歩む人々の姿を追った。=東日本大震災取材班 文=川又哲也、写真=中嶋宣城、動画=比義広太郎

■津波乗り越え、伝統を次世代へ

 生鮮カツオの水揚げが28年連続日本一の気仙沼市。今月2、3の両日「気仙沼みなとまつり」が開かれ、港町は、ひときわにぎわいを見せていた。

 73回を数える祭りの2日目。パレードのトリを「浪板虎舞」が飾り、沿道の観衆から拍手喝采を浴びる。この日をめざして、4歳から71歳までの「浪板虎舞保存会」のメンバーは、厳しい練習を重ねてきた。

 パレード出演前には、防災集団移転した浪板一区と同二区、かさ上げ造成された「かもめ通り商店街」、鹿折地区に整備された災害公営住宅の4カ所でも演技を披露。大太鼓と小太鼓、笛が奏でる囃子が鳴り響く中、勇壮に虎が踊る光景に、住民は懐かしそうに目を細めていた。

■「世界中の人の支援に感謝」

 祭りの日「かもめ通り商店街」では、浪板虎舞保存会顧問の小野寺優一さん(80)が演技を見守る。

 “虎舞ひと筋”の小野寺さん。25歳の時には1970年の「大阪万博」に出演した浪板虎舞で先導役の「虎バカシ」を務め、外国人観光客から「ワンダフル! タイガーダンス!」の歓声が。保存会の幹事長、会長を務め「虎舞は浪板地区みんなのもの」と全住民を会員とする規約を作り、県指定無形民俗文化財の指定に尽力した。

 今年6月14、15の両日、浪板虎舞は再び大阪・関西万博で熱演。同行した小野寺さんは「東日本大震災で世界中の人に支援してもらった御礼を虎舞に込めた」。感謝の舞に感動が広がった。

■「トラの力はすごいものでば」

 2011年4月、トラを学校のシンボルとする米国モース高校の生徒から励ましの手紙が届く。翌5月に贈呈式が予定され、お礼の虎舞が検討された。会員の多くは避難所生活。親を亡くした子どもがいる。子を失った親もいる。だが「虎舞はみんなのもの」と皆の心が一つになる。悲しみをこらえ、涙を流して演舞した。

 その後、各地のイベントに招かれ、舞うたびに住民の絆が強まる。関西万博に出演した高田将臣君(10)は「初日は雨。虎舞も“雨ニモマケズ風ニモマケズ”の気持ちで頑張った」と日焼けした笑顔を輝かせた。伝統は次の世代にも受け継がれている。「トラの力はすごいものでば!」。小松信幸会長(71)の確信だ。

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