公明新聞電子版 詳細ページ
身近に忍び寄る「薬剤耐性菌」/百日ぜき8割占める
細菌感染症の治療に使われる抗菌薬が効かなくなっている「薬剤耐性菌」(以下、耐性菌)が世界中で広がっている。日本でも身近なところに耐性菌が忍び寄っており、知らぬ間に耐性菌が大流行する「サイレントパンデミック」が懸念されている。昨年から、耐性菌による百日ぜきが流行している。医療現場を取材するとともに、大阪公立大学大阪国際感染症研究センターの掛屋弘センター長に見解を聞いた。
■「第1選択」の抗菌薬効かず
「従来の百日ぜき菌にはマクロライド系の抗菌薬が効くが、耐性菌には全く効かない」。治療に当たっている東京都立小児総合医療センター感染症科の堀越裕歩部長は、こう説明する。
昨年3月、他院で百日ぜきと診断され、第1選択薬であるマクロライド系抗菌薬による治療を受けていた生後1カ月の女児が呼吸不全に陥り、同センターに転院してきた。耐性菌を疑い、マクロライド系抗菌薬の代替薬である「ST合剤」という抗菌薬を投与したが、転院から5日目に亡くなった。
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所などが昨年、患者から採取した百日ぜき菌や検体を調べた結果、耐性菌が8割を占めていた。この結果を踏まえ、堀越部長は「耐性菌かどうかを調べる検査は、結果が出るまでに時間がかかるため、重症化しやすいワクチン未接種の乳幼児は手遅れにならないよう、最初から耐性菌も念頭に置いて治療を開始しなければならない」と話す。
■代替薬、副作用で新生児に使用制限
ただ、ST合剤は副作用のリスクがあり、新生児や低出生体重児には使用制限がある。それだけに、生後2カ月以降に計4回接種するワクチンでの予防が大切になる。
堀越部長は、妊婦に接種することで母体にできた抗体が胎児に移行する「母子免疫ワクチン」も有効だとして「将来的には、百日ぜき用母子免疫ワクチンの普及も子どもの命を守るために重要だ」と指摘する。
■命脅かすリスクが増大
耐性菌は百日ぜきだけでなく、さまざまな菌種で発生し、人々の命を脅かす。2024年に英医学誌ランセットに掲載された研究結果によると、50年までの25年間で、耐性菌が原因となる世界の死者数は3900万人を超えると推計されている。
耐性菌が増加する要因には、抗菌薬の不適切使用がある。中途半端な薬の使用で、耐性を持つ細菌が生き残って増殖したり、薬の脅威から逃れようと変異して耐性を獲得したりするからだ。
そうした中、新たな抗菌薬の開発が必要になるが、多大な費用と時間がかかる上、耐性菌を生まないよう販売量が制限されるなど、企業は利益を生みにくいという課題に直面している。
■公明、実態把握など対策強化訴え
公明党は、抗菌薬の適正使用に向けた周知徹底を訴えるとともに、抗菌薬の新薬開発や、原薬の国産化を推進してきた。最強の抗生物質と言われるカルバペネムが効かない耐性菌に対する新薬の開発企業を支援していく抗菌薬確保支援事業を実現した。
秋野公造政務調査会長は「耐性菌から国民の命を守るには、抗菌薬を国内で、きちんと確保することが重要だ。また、薬剤耐性のある非結核性抗酸菌やピロリ菌など、治療に影響を与える懸念のある感染症については、感染症法上の5類に位置付けて国が実態把握を進めるべきだ。今後も総合的に耐性菌対策の強化に取り組む」と話している。
■海外からの流入に警戒を/大阪公立大学大阪国際感染症研究センター長 掛屋弘氏
日本では病院内だけではなく、市中にも耐性菌が少しずつ広がっている。海外には、さらに強力な超多剤耐性菌が存在している。トイレなどのインフラ整備が不十分な途上国や、欧米など一部の高所得国でも超多剤耐性菌が広がっており、日本とは異なる状況が知られている。衛生環境が整っている日本で、超多剤耐性菌が直ちにまん延する事態は考えにくいが、海外からの流入に警戒していくことが重要だ。
医療現場での抗菌薬の適正使用に向けては、治療の早期から感染症専門医が関わることで、最適な薬を選択でき、患者の予後改善にもつながる。地域には専門医がいない医療機関もあるため、中核的な病院との連携体制を構築するなど、地域全体で感染症への対応力を強化する必要がある。また、感染症の専門知識を有する専門医や専門薬剤師の育成が求められる。
「抗菌薬は、風邪やインフルエンザなどのウイルス感染症に効かない」と正しく理解している人はまだまだ少ない。個人レベルでは、医師の指示を守って抗菌薬を適切に使い切るほか、感染症にかからないよう基本的な対策を徹底してほしい。
コロナ禍では、院内感染の防止へ感染管理認定看護師が活躍した。耐性菌の院内感染を防ぐためにも、こうした専門人材の確保・育成は急務であり、大阪公立大学では今年9月に同看護師の育成課程を開講する予定だ。
日本は現在、ペニシリン系抗菌薬の原薬を輸入に頼っている。現地で輸出が規制されれば、供給が途絶える懸念がある。こうした中、政府の支援も受けて製薬企業が原薬の国産化を進めており、実現に期待したい。