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(令和ニッポンを歩く)施設・里親から巣立つ子を厳愛で育む“おかん”の奮闘/幸せになってほしいから甘やかさず、寄り添う/大阪児童福祉事業協会「アフターケア事業部」
児童養護施設や里親などで育った後、保護から離れる子どもたち「ケアリーバー」。毎年数千人が高校卒業などを機に社会に巣立つが、孤立や経済苦に直面するなど自立のハードルは高い。大阪府で自立支援を行う社会福祉法人大阪児童福祉事業協会「アフターケア事業部」部長で、子どもから“おかん”“ママさん”と呼ばれる藤川澄代さんの奮闘を追うとともに、全国児童家庭支援センター協議会の橋本達昌協同研究所長の見解などを紹介する。
■(退所前)まず関係性を築く
12月中旬、大阪市天王寺区にあるシェラトン都ホテル大阪の広間に、児童養護施設などで暮らす高校生100人超が集まっていた。
「毎月の食費ってどのくらいやろ……」。高校生は真剣なまなざしで家計のやりくりなどを学んでいた。
これはアフターケア事業部が大阪府内の施設や里親の下で暮らす高校生を対象に開く講習会「ソーシャル・スキル・トレーニング」の様子だ。年間で全14回の自立支援プログラムで、施設や里親から巣立って社会生活を送る上で必要なマナーや知識などを教えている。
「できてない! もう1回やろう!」。講習会の途中、力強い声が響き、広間に緊張が走った。声の主は藤川さん。参加者のあいさつや受講の姿勢を厳しく注意した。
「施設などで育った子たちは、世間で当たり前の常識を知らないことが多い。幸せになってほしいから、私は子どもを絶対に甘やかさない。何も知らずに社会に出ていく方が、もっとかわいそうや」
退所した子が現実社会の荒波に直面し、仕事などで挫折する場面を何度も見てきた藤川さんは厳愛の心で接する。
同事業部は施設退所者などを対象に相談支援も行う。だが退所後、悩んだ時に自ら相談の場に足を運べる子は決して多くないという。そこで講習会を通じてスタッフが子どもたちと退所前から関わることで、退所後も気軽に相談できる関係性を築いている。
■(退所後)相談に乗り支える
ケアリーバーの悩みはさまざまだ。国の2020年度調査では、当事者の困りごととして「生活費や学費」「将来」「仕事」「人間関係」などが上位を占めた。周囲に頼れる大人が少ない中、孤立による生活苦、学業の断念、早期の離職も多いという。
実際どうなのか。アフターケア事業部の事務所を訪問し、藤川さんと共にケアリーバー3人に退所後の歩みを尋ねてみた。
Aさんは生まれてすぐに乳児院に入り、幼少期から児童養護施設で生活。高校卒業後、就職して一人暮らしを始めたが、病気や職場でのパワハラなどに苦しんだという。そんな中、寄り添ってくれたのが藤川さんだった。「最初はめっちゃ怖かったで」と笑うAさん。実親と暮らした経験はないが、「もし“おかん”がいたらこんな感じかなって」とほほ笑む。
一方、Bさんは実家で育ち、家庭環境に悩んで高校1年生で家を出た。その後、藤川さんらの法人が運営する自立援助ホームに入居。大学3年生になった今春から退所し一人暮らしを始めた。
管理栄養士をめざし勉強中というBさんに、藤川さんは「Bは本当に頑張り屋さんよな。今は一人で寂しくない?」と優しく聴く。Bさんは言葉に詰まり「うーん……ちょっと。“ママさん”に会いたいなって思う時もある」。藤川さんに漏らした本音だった。
支援する側になろうと決意するケアリーバーもいる。Cさんは高校を出て就職した後、24歳で仕事をやめて大学に進学。「社会福祉士の資格を取って、福祉関係の仕事に就きたい」と夢を語る。現在、同事業部の活動も手伝っている。
■(見守って25年)みんなうちの子
1964年に設立されたアフターケア事業部は長年、多くのケアリーバーを支えてきた。相談件数は年400~900件に上り、2001年から始めた講習会は累計で3万人弱が受講した。
01年から同事業部で働く藤川さんは語る。「最初は施設の子をかわいそうやと思っていた。確かに親と暮らせない境遇は気の毒やけど、施設では衣食住が確保されて職員が大切に育ててくれる。多少の不便はあると思うけど、不幸ではない」
だからこそ、何でもしてあげるのではなく、社会で生き抜ける力を育む支援が重要だという。日夜、子どもたちを温かく見守り続ける“おかん”は力を込める。
「みんなうちの子。将来、誰かの役に立てるような立派な人に育つと信じてる」
■自立支援の継続可能に/公明推進
かつて、施設や里親などで育った子どもたちは、原則18歳(最長22歳)で退所しなければならず、さまざまなサポートが受けられなくなる“18歳の壁”が存在した。
こうした中、公明党は当事者や支援者らの声を丁寧に聴きながら、ケアリーバー支援に尽力。22年の児童福祉法の改正も国会質問や提言を通じて後押しし、年齢制限の撤廃や孤立防止策などを盛り込ませた。
24年4月施行の改正法により、“18歳の壁”が撤廃され、教育機関への在籍などの援助要件も緩和。都道府県が必要と判断した時まで自立支援(児童自立生活援助事業)を継続・延長できるようになった。
■未実施の府県も
課題も残る。改正法の第11条には、都道府県が行わなければいけない業務として「措置解除者等の実情を把握し、その自立のために必要な援助を行うこと」が明記されたが、地域で支援に格差があるのが実態だ。
ケアリーバーを支える児童自立生活援助事業の都道府県での実施状況を種類別に見ると、自立援助ホームで未実施が1府、児童養護施設などで未実施が20府県、里親などで未実施が11県に上る。
また、政府は24年度から、ケアリーバーらに相談や交流の場を提供する社会的養護自立支援拠点事業も創設し各地に広まりつつあるが、まだ8県で実施されていない。
国はこれらの事業の実施主体として、都道府県のほかに政令市20と児童相談所設置市15を含む。だが政令市・設置市でも未実施が多く、早期の着手が求められている。
■援助の地域格差解消を/全国児童家庭支援センター協議会 橋本達昌協同研究所長
22年の児童福祉法改正は大きな前進と評価できる。“18歳の壁”が解消されたことで、現場では退所後のアフターケアだけでなく、入所中のインケアの充実にもつながっている。短期間で無理して自立の準備を詰め込む必要がなくなった。
ただ課題もある。支援の地域格差だ。一部の自治体や民間法人が児童自立生活援助事業の実施に消極的など、さまざまな理由で各地に自立支援の“穴”が生じている。
高校卒業後、県外大学に進む施設退所者もいるが、支援制度への理解や体制整備が不十分な自治体に転居したことで、自立に向けた多様な支援が届かなくなった事例がある。自立前に不適切な形で支援が中断される状況は、ケアリーバーにとって“いつでも帰れるわが家”を突然失うことに等しい。
国や自治体には、子どもたちが全国どこに住んでいても手厚い支援が受けられるよう環境づくりを進めてほしい。