2月末の米国とイスラエルによるイラン攻撃開始後、供給不足が深刻化するナフサ。関連製品が幅広いだけに、窮状を訴える声が相次ぐ。そんな状況は、先月の戦闘終結に関する合意後も続いており、「必要な供給量は確保」とする政府の発表との乖離が目立つばかりだ。“ナフサショック”で長引く現場の苦境を追った。今回は農業と漁業を取り上げる。 ■ビニール資材全般に影響及ぶ 埼玉県深谷市にある野菜農家「新井くんちの農園」。東京ドーム3個分を超える16ヘクタールの広大な農地でブロッコリーを中心にトウモロコシやネギ、ナス、カブなどを生産する。代表取締役の新井和稀さん(35)を悩ませているのが農業用資材全般の不足と値上がりだ。 雑草の増加や雨で土壌が削られることなどを防ぐために畑の土を覆うビニール資材「農業用マルチ」は、作物を育てる上で欠かせない。だが、ナフサからできており、「なかなか手に入らないだけでなく、4月以降は値段も3割ほど上がり、次の作付けに必要量を確保できるか先が見えない」。新井さんは嘆いた。 畑の野菜の保護フィルムや収穫後の野菜を入れる袋など、さまざまなビニール資材を使っているが、いずれも同様の状況だという。「必要経費が上がり続けているのに、野菜の売価はあまり変わらず、利益は減っている。今は、何とか持ちこたえているが、さらに続いたら経営がどうなるか分からない」とため息をついた。 ■枝豆の袋がない 兵庫県丹波市で米や枝豆を育てている須原隆一さん(42)は「枝豆を入れるポリエチレンの袋の在庫が全くない。10月の収穫期までに手に入ればいいが……」と不安を口にする。段ボールに入れて出荷することも想定しているが、袋の鮮度維持効果は大きく、それがないと品質が落ちてしまうという。 須原さんは地元のブランド和牛である但馬牛の繁殖も行うが、牧草のロールを包むラップも入手が難しくなっている。「今後の状況が不透明なので心配だ」と話す。 ■「捕れば捕るだけ赤字に」 北海道石狩市で漁業を営む門脇弥さん(44)は、ナフサからできている漁網や発砲スチロール製「魚箱」が手に入りにくく、価格が上がる状況が続く。「捕れば捕るだけ赤字になる。漁に出るのを我慢しなくてはいけない」と、悔しさをにじませていた。 ■魚箱や漁網、不足・値上がり深刻 最近、日本海側ではトドに網を食い破られる被害が多発しており、運が悪いと1回使っただけで、交換を余儀なくされる。門脇さんは「今、注文しても手元に届くのは半年後。買い足せず在庫が心もとない状況だ」とこぼした。 漁網とともに使うロープや浮きの価格も上昇。漁網にかかる費用は今年、昨年の1・5倍の300万円に上る見込みだという。 捕る経費も上がっているが、売るために発送する経費も魚箱や氷、輸送費の高騰で上がっており、1箱当たり800円にも上る。「1000円の魚を箱に入れて売れたとしても、200円しか利益が出ない」。窮状は深刻だ。 ■船底塗料足りず 瀬戸内海の東、播磨灘に位置する坊勢島(兵庫県姫路市)。同漁協の上西典幸参事(62)は、「船底塗料やさび止めに使うシンナー、潤滑油が入手困難で、圧倒的に足りていない」と話す。 値段も昨年に比べて1・5~2倍と高騰。船のメンテナンスは通常、年に2~3回必要だが、それが困難になっているという。 「メンテナンスができないと船底に海藻やフジツボが付き、水の抵抗が増して燃費が悪化する。燃料も高止まりしている状況では死活問題だ」。上西参事は切実な実態を訴えた。 ■国発表、現場との乖離大 政府は、鈴木憲和農林水産相が6月26日、農業用マルチなど計61項目について「全体として供給に問題がないことを確認した」と発表するなど、供給不安を打ち消すのに躍起だ。しかし、不足が明らかな現場の実情との乖離は大きい。 帝国データバンクは5月、ナフサなど石油製品の供給状況に関する影響調査を行い、4604社から回答を得た。納期遅延や数量不足など、調達上の支障が生じている資材では、ビニール袋やプラスチック容器などの「包装・物流資材」が20・2%と全体の5分の1を占めており、塗料やシンナーなどの「化学系加工資材」29・6%に次ぐ2位だった。