蒸し暑さに覆われた7月4日の昼下がり、東京都庁前で開催された生活困窮者向けの食料配布会を訪ねた。主催は、貧困問題の解決をめざす認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」(大西連理事長)など。NPOスタッフやボランティアの人々が行う食料の仕分けや配布作業に記者も参加した。支援の最前線を歩く中で、令和の貧困観が浮かび上がってきた。(報道部・高橋悠斗) ■子連れや若者も 新宿の高層ビル群に囲まれた都庁の前に、数百人の老若男女が続々と集まってきた。無料で配られる食料を求めて、長蛇の列が伸びていく。 そのそばで、スタッフやボランティアの人と一緒に、配布の準備に着手する。バナナ、トマト、アルファ米、パンなどの食料が入った大量の段ボールがずらりと並ぶ。数十人で協力し、食料を流れ作業でビニール袋に1人分ずつ詰めていく。 午後2時頃、配布が始まった。「どうぞ、お待たせしました!」。列に並ぶ人々に、食料の袋を手渡していく。母の手を握る女児、ヘッドホンをした若者……。路上生活者のような身なりの人ばかりではない。一見、普通に生活しているように見える人であっても、実は食料の調達に行き詰まり、困っている。そんな実態を示す光景を目にし、思わず息をのんだ。 都内在住の60代女性は袋を受け取ってすぐに中身をのぞいた。「炭水化物はおなかにたまるからいいね。どこも高くて買えないからね」。この日、食料を受け取った人は867人。現地で同時に実施した生活相談や医療相談の利用件数は51件だった。 「もやい」などは現在、毎週土曜に食料配布を実施。その利用者数は年々増加し、2020年4月4日は106人だったが、今年5月23日には約10倍、過去最多の1003人に上った。 理事長の大西さんは語る。「物価高が長引く中で賃上げの恩恵を受けられず、慢性的な低所得で苦しんでいる人々が増えている。貧困観のアップデートが必要だ」 ■1回で終われない 令和の貧困観とは何か。後日、都内にある「もやい」事務所を訪問し、大西さんの歩みや思いを聞き、探ってみた。 大西さんが生活困窮者支援に携わるようになったのは約16年前。麻布高校を卒業し、バーテンダーのアルバイトをしていた頃、新宿の炊き出し支援に行ったバイト仲間から「1回行ってみなよ」と誘われ参加した。 「新宿の街でこんなに多くの人が野宿をし、食事に困っているのか」。炊き出し後は夜回り活動もした。普段、視界の片隅に入ることはあっても、関わることはなかった路上生活者と触れ合い、心がざわついた。「1回手伝って、“良いことをした”で終わりにしていいのか」。この日以降、バイトをしながらボランティア活動を継続した。 ある時は、路上で暮らす中年男性に頼まれ、生活保護の申請をするため共に区役所へ。20年近く野宿をし、勇気を出してようやくたどり着いた支援の窓口。だが、男性を待ち受けていたのは、事務的で冷たい行政の対応だった。紹介された民間の宿泊施設に入るも環境は劣悪。翌週には路上に戻ってしまった。「支援につなぐだけでなく、つないだ先の支援の中身も変えないと」。男性を見て大西さんは痛感した。 ■困窮の背景に孤立 11年、東日本大震災の支援を機に、大西さんは「もやい」のボランティアから有給スタッフに。14年には27歳の若さで理事長に就任した。「もやい」は現在、生活相談や入居支援など主に四つの事業に取り組んでいる。 例えば入居支援。住所を持たない人は、就職や行政サービスの利用などが困難になる。そこで、路上や施設などで暮らすホームレス状態の人がアパートで生活できるよう、賃貸借契約の連帯保証人や、保証会社の利用に必要な緊急連絡先、アパート型のシェルターを提供している。 「あの方もその一人」。大西さんに言われ振り返ると、今日からシェルターに入るという男性がいた。 「もやい」は約500世帯の連帯保証人を、大西さん個人では約1400世帯の緊急連絡先を引き受けている。大西さんのスマホを見ると、保証会社からメールが何件も届いていた。家賃の滞納や入居者が音信不通になった場合などに連絡がくる。「賃貸契約をしたくても緊急連絡先を頼める家族や友人がいない、孤立した人がいる。経済的貧困の背景には“つながりの貧困”がある」 ■食に困らない社会 現在、新宿の路上生活者は100人程度。単純計算で、食料配布に集った約1000人の9割は住む場所がある人と考えられる。 大西さんは貧困観の変化に言及する。「かつて貧困とは失業の問題だった。病気やリストラ、障がいなどで働けず収入が減って生活が困窮した。だが近年、物価高や非正規雇用の増加などを背景に、その状況が変わった。きちんと働き、生活保護の対象でない人たちが慢性的な低所得状態に陥り困っている。貧困は昔よりも身近に、そして見えにくくなっている」 そんな人々の暮らしを支える給付金などの支援策が今、不足している。 「低所得者向けの給付は“バラマキ”と言われやすいが、給付がないと置き去りにされて苦しむ人たちがいることを忘れないでほしい。教育、医療、住居などの支出を減らす支援も重要だ。貧困の捉え方も、支援のあり方も転換するべきだ」 「もやい」はどこへ向かっているのか。そう聞くと大西さんは笑顔で「解散」と答えた。「私たちが必要ない社会になることが一番。食料を求めて1000人近くが集まる今の状況は異常だ。食べるのに困る国民がいない社会を築いてほしい」 そのためにも大西さんは情報発信や行政への政策提言に力を注ぐ。新宿の片隅で聴いた悲痛な叫び、生活困窮を生む社会のゆがみ。そんな貧困の実像を訴える中でこそ、社会は変わっていくと信じて--。 ■中道・公明、迅速な給付訴える 4日の食料配布には、中道改革連合の小川淳也代表、山本香苗代表代行、公明党の川村雄大参院議員、中道の大森江里子、原田直樹の両衆院議員も参加。配布作業を手伝った後、大西さんから現場の状況を聴いた。 小川代表は「貧困や生活苦がまん延し、慢性化・構造化している。賃金の上昇や雇用政策に加え、緊急の措置として給付金の実行などの政策が求められている」と強調。 これまで何度も現地を訪れてきた山本代表代行は「路上生活者だけでなく、働いても生活が苦しい人が増えている状況を実感した。政府の支援は待ったなしだ。予備費を活用した迅速な給付などを政府に訴えていく」と力を込めた。 ご感想をお寄せください https://forms.gle/bqgiaVH2S6u14XQU8