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(令和ニッポンを歩く)AIにできない心の対話重ねて/“出所後”支える保護司の生きざま

公明新聞2026年2月19日付 3面

 冷たい雨の日に傘を差し出すように、そっと隣を歩き、再び社会へ戻る道を共に探す--。犯罪や非行をした人(保護観察対象者)の更生を法務省の保護観察官と連携して支援する「保護司」。非常勤の国家公務員として委嘱されるものの、実際は無報酬の民間ボランティアだ。何が彼らを突き動かすのか。東京都内で活動する保護司を訪ね、その生きざまを探った。

■「社会復帰へ『汽水域』の役割」/損得抜きで寄り添い、信じる

 「刑務所や少年院と社会の間には『汽水域』が必要だ。その役割を保護司が果たす」。この道29年の大ベテラン、葛飾区保護司会の石川宏太会長の言葉は力強い。

 刑務所などの規律で固められた「淡水の川」から、社会という自由と競争と無関心が広がる「塩辛い海」へ--。突然放り出されれば、環境の激変に溺れてしまう魚もいる。だからこそ、淡水と海水が混じり合う汽水域のように、保護司がクッション役となり地域への適応を助けるという。

 保護司の主な業務の一つは、保護観察官が作った更生計画に基づき、刑務所を出所した人らと月に数回の面接を自宅などで行い、生活や仕事の状況を聞いてアドバイスを送ること。いかに心を開いてもらうかが重要だ。捜査や裁判の過程で罪を厳しく糾弾され、心を固く閉ざしている人もいる。そこへ正論をぶつけても響かない。

■遠回りが必要

 「昼ご飯は何を食べたの?」「プロ野球の結果はどうだった?」。ベテラン保護司の面接は驚くほど遠回りだ。「話すうちに必ず接点が見つかる。少しずつ心を通じ合わせながら、罪に向き合ってもらう」と石川会長。

 信頼関係が築けたと思っても油断は禁物。時には裏切られることもある。声のトーンや微細な表情の変化から相手の“心の天気”を読み取る職人技が求められる。急な相談で昼夜を問わず電話が鳴ることも珍しくない。

 24時間体制で一人の人生に寄り添い、共に悩み、信じ続ける。この一見非効率な行為の蓄積だけが、“自分を気にかけてくれる誰か”の存在を対象者の心に刻み、更生への道を開く。石川会長は断言する。「どんなにAI(人工知能)が発達しても、保護司の代わりはできない」

■無報酬の是非

 自らの時間を削り無報酬で社会奉仕に励む保護司。金銭的な負担も小さくない。交通費や通信費などの実費弁償金が一定額支給されるものの、それだけでは足りずに善意の「持ち出し」が発生しているのだ。実際、「保護司の活動はボランティアの域を超えているから、報酬を支給すべき」との議論もある。ただ、現場では慎重意見が根強い。それはなぜか?

 全国保護司連盟(全保連)の原沢和茂事務局長は、端的にこう述べる。「報酬が発生すると『対等な隣人の手助け』が『仕事』に変質し、対象者と心を通じ合わせる妨げになるのではないか」

 効率や対価が重視されがちな現代社会において、保護司の存在は極めて特異に見える。しかし、損得勘定を抜きにした人間の関わりが更生の現場を確かに支えている。

■世界が評価も人手不足

 保護司が対象者の心を和らげ、観察官が専門性を担保する。この日本の更生保護制度は、フィリピンやケニアへ“輸出”されるなど、世界的な評価を受ける。昨年12月の国連総会でも、地域の力を活用した官民連携による再犯防止策の好事例として採択された。

 ただ、足元では制度存続の危機が迫っている。日本の保護司の定数は全国で5万2500人だが、昨年1月時点の実人員は約4万6000人にとどまり、平均年齢は65・4歳。十数年後には活動が困難になる恐れがある。

 人材確保の展望も厳しい。内閣府が全国3000人を対象として昨年11~12月に実施した調査では、保護司就任の依頼を「引き受けたくない」との回答が86・4%に達した。「犯罪をした人とどう接すればいいか分からない」(57・3%)という不安に加え、「自分や家族の身の安全」を懸念する声も45・2%を占めた。滋賀県大津市で2024年5月、自宅で面接中だった保護司が対象者に殺害された事件の影響は色濃いようだ。

■公明、安全対策を推進

 公明党は24年6月、保護司の安全対策強化を政府へ提言。昨年12月に成立した改正保護司法に反映され、公共施設などを活用して面接場所を確保することが地方自治体の努力義務になった。現場レベルでも、必要に応じて複数の保護司で面接するなどの工夫を行う。一方、改正法には、保護司の任期を2年から3年へ延長したり、民間企業に対し保護司が休暇を取りやすいように配慮を促したりすることも盛り込まれた。

 さらに制度を持続可能にするには、活動費の支援も欠かせない。公明党は実費弁償金の拡充をめざす。全保連の原沢事務局長も「現場の声を踏まえ活動予算の確保を求めたい」として、実費弁償金の充実などを通じて保護司の負担軽減を進めたいとの立場だ。