気候変動により各地で記録的豪雨の発生が相次ぐ中、水害対策の一環で水田に雨水を一時的にためて、洪水の被害を軽減させる「田んぼダム」の導入が各地で広がっている。農林水産省によると、2024年度の取り組み面積は約9.9万ヘクタールで、21年度比で77%拡大した。先進事例や各地の取り組みを追った。 農業を基幹産業とする宮城県大崎市では、長年、大雨被害に悩まされてきた。15年9月の関東・東北豪雨、19年10月の台風19号などでは、排水機場が浸水し、機能不全に。市は対策を検討していく中で雨水流出を抑制する田んぼダムに着目した。 20年から新潟大学と行った実証実験では、浸水被害が64%も減少し市は「効果がある」と判断。県と東北興商株式会社が開発した「せき板」を、農家と関わりが深い土地改良区を通じて希望者に無償配布するなど普及啓発を進め、取り組み面積は21年度の約310ヘクタールから25年度には1714ヘクタールまで拡大した。 広域的な推進を図るため、市と県は21年に「田んぼダム実証コンソーシアム」を創設。約80%の県内自治体や土地改良区が参画しており、シンポジウムの開催などを通じて、田んぼダムの普及に取り組んでいる。25年度時点で県内の田んぼダム取り組み面積は約3200ヘクタールとなり、23年度比で119%増加した。 同市で田んぼダムに取り組む農家の本間章夫さんは「大雨が降った際は水位が上がり、河川への流出を抑える効果を実感している」と語る。 ◇ 「田んぼダムは他の治水事業に比べ、低コストで手間も少ない。稲作への影響もなく営農しながら取り組める利点が普及を後押ししている」(農水省)という。実際、全国の取り組み面積は年々増加し、北海道や新潟、東北地方など米どころを中心に38道府県にまで広がっている。 治水効果も各地で報告されており、新潟県の実証事業では、50年に1回の確率で発生する規模の降雨の場合、浸水量が26%、浸水面積が24%低減する効果が明らかに。栃木県の試算では、19年10月の台風19号による豪雨(24時間雨量325・5ミリ)の場合、床上浸水面積(50センチ以上)を58%軽減する効果が示されている。 ◇ 国は田んぼダムを河川の流域全体で水害を防ぐ「流域治水」の一つとして、国土強靱化基本計画に位置付け、29年度に17万ヘクタールまで拡大する目標を掲げる。今年3月には各地の好事例などをまとめた手引きを改訂した。また、必要経費を支援する多面的機能支払交付金や各地で効果を簡単に算出できるプログラムを開発するなど、普及促進に取り組んでいる。 各自治体では、こうした国の支援も受けながら、出前講座やパンフレットによる普及を進める。新潟県見附市では、田んぼダムに取り組む農家に対し委託料を支払うことでインセンティブ(動機付け)を付与する独自の事業を実施している。 課題は上流で取り組むほど下流で効果が発揮されやすいため、実施者と受益者が必ずしも一致しない点だ。自助・共助・公助の一層の機運醸成を図ることが求められる。 ■公明、交付金拡充で普及後押し 公明党は流域治水の観点から田んぼダムの普及を推進。25年2月には、中長期的な農政の基本方針を示す国の「食料・農業・農村基本計画」の策定を巡り、江藤拓農水相(当時)に対し、同交付金の拡充を要請していた。