ハンセン病に対する偏見や差別は根強く、社会の無理解から今なお息を潜めて暮らす元患者や家族も少なくない。負の歴史を未来への遺産へと変えゆくため、私たちに何が問われているのか。残された課題と公明党が果たすべき役割について、国立ハンセン病資料館の内田博文館長に聞いた。 ■根強い偏見や差別 --今年4月で「らい予防法」廃止から30年、5月には国家賠償訴訟判決から25年の節目を迎えた。ハンセン病問題の解決は進んだのか。 ハンセン病問題は決して過去の終わった問題ではない。全国の療養所【図参照】では入所者の高齢化と減少が進んでいるが、その一方で、定員を満たすだけの医療・介護スタッフが確保できていない。 社会には偏見や差別が根強く残る。亡くなった後も故郷の墓に入れず、療養所内の納骨堂に安置される人が多い。家族との関係修復が進まない現実がある。 退所者が社会で暮らす壁も厚い。後遺症について医療機関の十分な理解が得られず、適切な診療を受けられないために、やむなく療養所へ再入所するケースが後を絶たない。大学医学部や自治体での医療従事者に対する研修も不十分だ。 ■身元明かせぬ家族多い さらに深刻なのは、家族の置かれた状況だ。2019年に勝訴判決が出たハンセン病の家族訴訟では、原告の9割以上が「匿名」のまま闘うことを余儀なくされた。実名や顔を明かすことで、家族にまでいじめや就職・結婚の差別が及ぶことを危惧したからだ。 国は家族への補償金支給制度を創設したが、約2万4000人いると推計される対象者のうち6割以上は申請をしていない。個人情報は守られる仕組みだが、それでも何かのきっかけで元患者の家族であることが発覚してしまうのではないかとおびえながら暮らしているのが実情だ。 ■人権教育、質・量の充実を --なぜこれほどまでに偏見や差別が根強く残っているのか。 最大の要因は、日本の人権教育が「思いやり」や「優しさ」を説く道徳教育にすり替わっている点にあるのではないか。道徳として教えられると、人権を侵害されている側に対しても、無意識のうちに「思いやり」を要求することになる。 03年に熊本県内の温泉ホテルがハンセン病元患者団体の宿泊を拒否した事件があった。これは人権侵害であり、元患者側は正当な主張をしたが、その模様をテレビなどで知った市民から「一方的で思いやりに欠ける」と非難の声が上がる現象も起きた。 厚生労働省の調査では、ハンセン病問題の人権教育を受けたはずの若い世代に強い偏見が残っていることが判明している【別掲参照】。学校現場でハンセン病の授業を受けた割合は、わずか5%程度に過ぎない。人権教育は質量共に全く足りない状況にあり、抜本的な充実が必要だ。 ■入所者なき後の療養所/「永続化」へ法改正必要 --現在、大きな課題となっているのが、入所者がいなくなった後の療養所の扱いだ。 ハンセン病の歴史を風化させないためにも、人権の拠点として残す「永続化」を進めなければならないというのが多くの関係者の願い。そのためには法改正が必要だ。現行の「ハンセン病問題基本法」は入所者がいることを前提としているからだ。 ただし、人口流出が続く地方自治体に療養所を引き受けてもらうには、永続化の意義について理解を得ると同時に、財政的な支援も必要になる。 これまでハンセン病問題は、当事者と国との直接交渉で進められてきた。しかし、入所者の平均年齢が90歳に迫る中、当事者の自助努力に頼る仕組みは限界を迎えている。これからは市民やメディアが主権者かつ加害者として主体的に声を上げていくべきだ。 --公明党ハンセン病問題対策本部(本部長=谷合正明参院会長)は、先月から全国各地の療養所への訪問を開始した。 25年前に国家賠償訴訟で国が敗訴した際、公明党出身の坂口力厚労相が政府内で控訴断念の姿勢を貫き、問題解決の大きな突破口を開いた。その功績は計り知れないが、その後の残された課題への国の対応は十分な効果を上げているとは言えない。ハンセン病問題を未来への教訓とするため、公明党をはじめとする各政党の積極的な取り組みを強く期待している。 ■(全国意識調査)「抵抗感」若年層でも高割合 厚労省の「ハンセン病問題に係る全国的な意識調査」(23、24年度実施)では、元患者や家族への偏見や差別が現在も世の中に「あると思う」が約66%(24年度)を占めた。 元患者や家族の近所に住んだり、同じ職場に通ったりすることへの「抵抗感」を示す割合は、中年層に比べて若年層で高い傾向が見られた。 国は元患者・家族の名誉回復に向けた啓発事業を続けており、02年度からは毎年、全中学校に啓発冊子を送って活用を呼び掛けているが、十分な効果が上がっていないことが浮き彫りとなっている。 うちだ・ひろふみ 1946年、大阪府生まれ。九州大学名誉教授。ハンセン病市民学会共同代表。厚労省第三者機関「ハンセン病に係る偏見差別の解消のための施策検討会」座長などを歴任。2021年から現職。