自分らしく生きたい--。LGBTQなど性的少数者であるが故に差別や偏見を受け、この当たり前の権利を得ることが難しい人たちがいる。性の多様性に寛容な社会の実現をめざす「LGBT理解増進法」が2023年6月に成立・施行され、来月で3年がたつ。同法では国による基本計画の策定が義務付けられているが、いまだに実現していない。当事者は今、何を思うのか。課題を探った。(報道部・高橋悠斗)
■誰にも話せない
「ある日、同性の親友に恋する自分に気付いた」。都内に住む小田浩一さん(仮名)は学生時代を振り返る。同性を好きになったが、自分がゲイだと知られたら嫌われるかもしれない。「誰にも相談できなかった」
悩んだ末、勇気を振り絞って親友に気持ちを伝えた。だが、それをきっかけに親友との関係は崩壊。せめてもの思いで教師に相談するも理解してもらえず、学校に行くのが怖くなって不登校に。自身がゲイであることは「墓場まで持っていくつもりだった」。社会に出て、ようやく何でも話せる友人ができた。
■虹が架かる拠点
独り悩みを抱えるLGBTQ当事者らを温かく受け入れる居場所の一つに、支援拠点「プライドセンター大阪」(大阪市北区)がある。
4月下旬の昼下がり、降りしきる雨を抜けてこの拠点を訪ねると、天井に“6色の虹”が架かっていた。性の多様性と尊厳を表す虹色の旗「レインボーフラッグ」だ。
「当事者やその家族などが、ありのままの自分で安心して集まって相談や学習ができる居場所になれば」。同拠点を運営する認定NPO法人「虹色ダイバーシティ」(以下、「虹色」)の村木真紀理事長は思いを語る。
実は、村木さん自身も当事者だ。高校生の時、同性と恋愛をする中で自身がレズビアンだと自覚。「当時は周囲にばれちゃいけないと怖かった」
就職後は職場での無理解やハラスメントに苦しんだ。今以上にLGBTQへの理解がなかった時代。会社の朝礼で上司が話す“ゲイネタ”、飲み会では取引先の男性の横に座らされ接待……。会社に相談しても深い理解は得られなかった。
この頃、ゲイである友人が自死したと耳にする。背景には性への無理解や職場でのいじめがあった。村木さんは“職場”という環境を信用できなくなり、うつ状態に。仕事も休職した。
そんな時、海外でLGBTQの調査研究などの活動が進んでいることを知る。「日本でも広げたい」。13年、LGBTQなどの尊厳と権利を守ろうと「虹色」を設立。「たった一人、テーブル一つから活動を始めた」
以来、行政や企業、大学などと連携し、LGBTQの調査研究や社会教育、拠点運営などに取り組んできた。全国で実施している講演回数は累計約1600回に上る。
プライドセンター大阪には日々、多様な相談が寄せられ、その予約枠はすぐに満員になるという。支援を待ち望む人の多さがうかがえる。「安心して話せる友達がほしい」「カミングアウトしたら就職の内定が取り消しに」「同性パートナーだと扶養手当や育児休暇などの福利厚生が使えない」……。自傷や自死など命に関わる深刻な相談も。
■法施行を問う
理解増進法施行から約3年。何が変わったのか。
自治体では、LGBTQカップルの関係を登録する「パートナーシップ制度」や、スカートやパンツを自由に選べる学校制服の導入などが進みつつある。パートナーシップ制度を15年11月に全国で初めて導入した渋谷区と「虹色」が、25年6月に発表した共同調査の結果では、同制度の導入自治体は530で、人口カバー率は9割超に上る【グラフ上参照】。
ただ、LGBTQ理解が十分に進んでいるとは言い難い。「虹色」は22~24年、累計6593人の当事者らを対象に、仕事や暮らしに関する調査を実施。理解増進法の成立後も、54・9%の職場でLGBTQ施策がゼロの状態と明らかに【グラフ下参照】。学校や職場での差別的言動についても改善が見られなかった。
ネットなどでLGBTQに関する差別的発言や偽情報を投稿する人も減っていない。「社会への不満や不確実性が高まる中、マイノリティーがスケープゴート(身代わり)になっている。反LGBTQを掲げる政治家もおり、当事者は選挙のたびにおびえている」。村木さんは危機感を抱く。
■私はいない存在か
同性パートナーとの間に小学生の子どもがいる村木さん。家族3人で学校や地域の行事に出かけると、「お母さんと子どもと、あなたは誰?」と質問されるという。「私は今の社会では親と見なされていない。いない存在かのように扱われる。切ない。この状況を何としても変えたい」
国内のLGBTQ当事者の割合は10人に1人とも言われる。公表する人が少ないだけで、当事者は身近なところで苦しんでいるかもしれない。
最近も、一部の政治家によるLGBTQへの不適切な発言があった。理解増進法には明記されている。「全ての国民が、その性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重される」。この基本理念に立ち返り、当事者らの声なき声に向き合う。そんな真摯な姿勢が、政治家たちに求められているのではないか。
■(理解増進法施行から約3年)基本計画、未策定のまま
当事者が政府に求めることは何か。村木さんは民間の対応だけでは限界があるとして「早く基本計画を作り、予算を付けてほしい。これがないと自治体で施策が進まない。当事者らが集まれる拠点整備も必要だ。都道府県や政令市に置くべきではないか。精神疾患や自死に至る前に解決することが重要だ」と訴える。
■公明・谷合氏「放置の現状、許されない」
こうした状況を踏まえ、超党派のLGBT議員連盟の事務局長などを務める公明党の谷合正明参院会長は、今年3月の参院予算委員会で理解増進法に言及。「法律成立から3年がたとうとしながら放置されている現状は、立法府の意思を無視する事態であり、許されない。速やかに基本計画を閣議決定すべきだ」と強く主張。首相から「高市内閣で策定をする」との答弁を引き出した。
一方、関係者からは「早く進めてほしいが、今の政権で作られる基本計画が良いものになるのか」と焦燥と懸念の声も。
公明党は同法の成立時も尽力し、幅広い合意形成の推進役を担った。
谷合氏は力を込める。「LGBTQの法整備は、性的少数者だけの課題でなく、日本社会が人権にどう向き合うのかという重要な問題だ。当事者の切なる思いを踏まえた、適切な基本計画が作られるよう全力を尽くす」





