聴力には問題がなく、音が聞こえているにもかかわらず、言葉の理解が難しい「聞き取り困難症(LiD)」。周囲から外見で判別しにくく認知度も低いため、当事者は日常生活や職場で深刻な生きづらさに直面している。 ■会話に入れず、うつ併発も 苦悩は幼少期から始まった。にぎやかな家族の会話の輪に一人だけ入れなかった。幼稚園では問題児扱い。小・中学校時代には、周囲とコミュニケーションが取れず、いじめに遭った。教師の話を聞き、ノートを取るという複数の動作が同時にできず、学業不振に陥り、不登校にもなった。 そんな経験をしてきたのが、聞き取り困難症の当事者である神奈川県在住の鈴木浩子さん(50代・仮名)だ。「騒音下や複数人の会話が苦手で、話している言葉を理解するのが難しい。しかし、聴力検査でも異常はないため、周囲から配慮が得られにくい」と打ち明ける。社会に出てからも、聞き取れた断片的な言葉から内容を推測せざるを得ず、周囲からは「都合よく脳内変換する、うそつき」と非難を浴びた。 症状について知り、医師から診断されたのは今から4年前のことだった。「自分の努力不足ではなかったのだとホッとした。それと同時に、もっと早く知りたかったという悔しさもある」と鈴木さんは当時を振り返る。 鈴木さんは現在、当事者団体が作成した、聞き取り困難なことを知らせる「LiD/APDマーク」を身に着けて外出している。「聞き取りにくいことは、外見上では伝わらない。こうしたマークの活用も含めて理解が広まっていき、誰もが生きやすい社会になってほしい」と前を向く。 ■自分で気付けず 「国内研究によれば、子どもの1~3%が聞き取り困難症だと推計されているが、当事者は聞き取れない日常が当たり前になっており、違和感に気付けない。自責の念を長年抱き続け、診断される頃には、うつ病などの精神疾患を併発してしまう人も少なくない」と話すのは、近畿LiD/APD当事者会の渡邉歓忠代表だ。「思春期を迎える前までに周囲の大人が症状に気付き、適切なケアを施せるよう、正しい認知が広がってほしい」と学校現場などでの周知徹底の必要性を訴える。 ■公明、地方議会で対策訴え/仙台市、啓発パンフを作成・配布 聞き取り困難症を巡っては、公明党の地方議員が議会質問などで対策を提案し、周知の取り組みを推進してきた。仙台市では症状を解説した啓発パンフレットを作成し、昨年4月から各区役所で配布している。このほか、当事者団体と連携して市民向け講演会を開催する地域もあり、認知が徐々に広がっている。 川村雄大党厚生労働部会長(参院議員)は「外から見えにくい症状であり、社会からの孤立にもつながる深刻な課題だ。有識者や地方議員などと連携し、理解の促進と適切な支援策の構築に努めたい」と話している。 ■学校に援助機器の導入を/医誠会国際総合病院診療副院長 阪本浩一氏 聞き取り困難症は、職場の電話対応などで深刻な生きづらさに直面した当事者が、SNSなどを通じて声を上げ始めたことで、近年少しずつ知られるようになった。しかし、社会的な認知度はいまだ低いままだ。 根本的な治療法は確立されておらず、周囲による合理的配慮が欠かせない。例えば、騒音下での作業や電話対応を減らすほか、口頭のみならずメモなどの文字情報でも伝えるといった工夫が求められる。 注意したいのは、聞き取り困難症の疑いがある人の中に、軽度の難聴が隠れているケースが1割に上る点だ。症状が疑われる場合は、まず近隣の耳鼻咽喉科で一般的な聴力検査を受け、必要に応じて専門的な検査が可能な医療機関を受診してほしい。 行政には、理解促進とともに、マイク(送信機)の音声をイヤホン(受信機)でクリアに聞ける補聴援助システム「ロジャー」の学校現場への積極的な導入を求めたい。その際、受信機を個人で購入しなければならない場合もあるが、中等度難聴児への補聴器購入費助成の枠組みを応用するなど、購入しやすい環境を整備してもらいたい。