新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが2023年5月に「5類」に移行して3年。社会は日常を取り戻した感が強いが、コロナは今なお、高齢者や基礎疾患のある人が重症化・死亡するリスクが高い深刻な感染症だ。ワクチン接種の現状などを紹介するとともに、医療政策や公衆衛生学が専門の五十嵐中・東京大学大学院薬学系研究科特任准教授に話を聞いた。 ■ワクチン「高くて打てず」/国の支援乏しく1万円超かかる地域も コロナの感染症法上の扱いは季節性インフルエンザと同じだが、危険性は大きく異なる。24年のインフルエンザ死亡者数が2857人であるのに対し、コロナは約13倍の3万5865人に上る。このうち、高齢者が9割超を占めた【グラフ参照】。 発症や重症化を防ぐ有効な手段はワクチン接種。施設で生活を送る高齢者や透析患者らの命を守る観点からも重要だ。だが現在、高齢者の接種率は低迷。医療機関に納入されたワクチン本数から見ても高齢者全体の約2割(24年度)とされる。 要因の一つが、接種費用の高さだ。24年3月で公費支援による無料接種は終了し、一部自己負担が発生。25年度からは国による自治体への助成金も終わった。 国は現在、65歳以上の高齢者と、一定の基礎疾患のある60~64歳を対象に年1回、定期接種を実施している。だが、「B類疾病」の位置付けであり、国が自治体に交付するのは総接種費の3割程度。これにより低所得者は無料で受けられるが、それ以外は自己負担が生じることが多い。 その自己負担額は地域でばらつきがあり、25年度は全額無料の自治体がある一方、1万円を超える自治体も珍しくない。負担が重い地域の医療関係者からは「『ワクチンが高くて打てない』という申し出がかなりある」との声も上がる。 また、時事通信社などが今年2~3月、計109の政令市や中核市などを対象に実施した調査によると、コロナワクチン定期接種で自己負担額が高い自治体ほど接種率は低く、自治体の財政力格差が接種率に影響した可能性があるという。 ■公明訴え、80歳以上など無料に 公明党の秋野公造政務調査会長は25年12月の参院予算委員会で、65歳以上のコロナワクチンの定期接種のうち、少なくとも80歳以上の人などについては、原則無料となる「A類疾病」にするよう訴えた。 秋野氏は、65歳と80代以上ではコロナ重症化のリスクが10倍以上も違うことなどを指摘。コロナが集団感染を起こす性質も変わっていないことから、個人予防を目的とするB類疾病ではなく、「集団の予防を対象とするA類疾病の考え方のほうが80歳以上の人に対しては合う。手厚い対応を行うべき」と主張した。さらに、海外で高齢者への無料接種が進む状況も紹介し、「なぜ日本ではできないのか」と強く訴えた。 5類移行から3年が過ぎた今、秋野氏は語る。 「80歳以上の高齢者や高齢者施設で暮らす人、透析患者らは、コロナ感染による死亡リスクが今も高いことは明らかなのに、ワクチン接種への国の支援が乏しい。この現状は“生命軽視”とのそしりを免れない。A類疾病に位置付けるなど、国が柔軟に財政上の支援を行うべきだ」 ■東京大学大学院 五十嵐中特任准教授 ■高額負担「あまりに酷」/全額助成の“費用対効果”良好 高齢者や基礎疾患がある人に対する新型コロナワクチンの効果は明らかだが、接種にはいくつかハードルがある。 一つは、自主的に足を運ぶ手間がかかること。また、コロナが既に克服された感染症であるかのような印象を持つ人が増えつつある社会状況も接種を妨げている。 さらに、費用負担のハードルもある。80代など高齢になればなるほど自由に使えるお金は減る。今の定期接種B類における支援状況はあまりにも酷ではないか。仮に、国が接種費1万5000円の3割を助成したとしても、残りの自己負担額が1万500円では重い。 私はコロナワクチンについて、お金と効き目のバランス、費用対効果を研究している。分析結果では、国がワクチン費用を全額助成したとしても費用対効果は良好であることが判明した。全額助成でいったんは費用は増加するが、ワクチンがもたらす医療費の削減である程度相殺される。罹患者や死亡者の減少、生活の質の向上など健康上のメリットを加味すれば、十二分に価値があるという結果だ。 今、国や自治体に求めたいのは、コロナは終わった病気ではなく、高齢者などにとっては深刻な感染症であると広く周知させることだ。そして、適切な支援を行ってもらいたい。国が自治体に3割しか交付をしない定期接種B類の現状では、必要な人の元にワクチンが届きにくい。高齢者らがアクセスしやすくなる手段を講じてもらいたい。