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相次ぐクマ被害、どう安全を守るか
相次ぐクマ被害に関して環境省は17日、今年4~10月の全国の被害者数を計196人と発表した。過去最多だった2023年度の219人に迫っている。そんな中、クマの習性を踏まえた対策で人の生活圏での人身被害をゼロに抑止しているのが長野県軽井沢町だ。取り組みを紹介するとともに、国立研究開発法人・森林総合研究所の大西尚樹動物生態遺伝チーム長に必要な対策などを聞いた。
■(人身被害ゼロの長野・軽井沢町の場合)ごみ管理や電気柵、学習放獣で“出没はムダ”と分からせる
「クマは頭がいい。人や残飯に慣れてしまうと出没を繰り返してしまう。逆に、街中に餌がないことを分からせ、人の存在を警戒するよう学習させれば、出没を抑えられる」。豊かな森と観光地が隣接する長野県軽井沢町で、町から対策を委託されているNPO法人「ピッキオ」の担当者は力を込める。同町では、1998年から対策に取り組んだ結果、15年間にわたり人の生活圏での人身被害を0件に抑えている。
“出没してもムダ”とクマに分からせるための工夫の一つが、徹底した、ごみ管理だ。99年には100件を超えるごみ荒らしが発生し、ごみに餌付くクマの出没が深刻化していた。そこで2002年、クマが開けられない構造のごみ箱を開発。翌年から公共のごみ集積所への設置を進め、整備が完了した09年には、ごみ荒らしは0件に。農作物も誘因物になるため、電気柵の設置に町が補助金を出すなど、地域全体で対策を進めている。
二つ目の工夫は、出没したクマへの対応だ。捕獲後にゴム弾や花火を使って「人は怖い存在」と学習させて森へ返す「学習放獣」を行い、人里へ近づきにくくする取り組みを続けている。
放獣の際には発信器を装着し、行動範囲や人への反応などの情報を収集。それを分析して、個体の危険度を5段階で評価する。さらに、町内を森林・別荘地・耕作地・住宅地の四つに区分し、人とクマのすみ分けを図る「ゾーニング管理」の考え方に立って、出没した場所と個体の危険度に応じて「駆除」や「追い払い」などの対応を選ぶ。
■誘因物、やぶの除去が効果的
担当者は、各地で今できる対策として「クマと人の住む場所の境目を示すため、ごみや農作物など餌になる誘因物を適切に管理するとともに、見通しの悪いやぶを刈り払うだけでも、一定の効果が期待できる」と話す。
■公明、自治体支援の強化要請
公明党は今月6日、野生動物被害対策プロジェクトチーム(座長=谷合正明参院会長)などの合同会議で政府に、ハンター不足解消に向けた捕獲単価増額や、わな導入に取り組む自治体への財政支援強化などを求めた。14日に政府がまとめた「対策パッケージ」に反映された。
谷合座長は「人身被害の防止を最優先に、国と地方自治体、関係省庁が密に連携し、中長期にわたった効果的な対策を実行できるよう引き続き働き掛けていく」と語る。
■森林総合研究所動物生態遺伝チーム長 大西尚樹氏
被害が相次いだ23年と比べると、今年はより市街地中心部で出没しており、頻度も増えている。クマの生息域が拡大し、人里近くに定着しているためだ。
その上、昨年はドングリなどの餌が豊作で繁殖が進んだところに今年の凶作による餌不足が重なり、多くの個体が餌を求めて人の生活圏へ出てきたと考えられる。
■まず個体数減らす対策を
中山間地域では過疎化が進み、管理されない土地が広がっている。こうした環境はクマにとってすみ着きやすく、東北地方では人の生活圏とクマの生息圏が重なってしまっている地域も多くある。この現状は、環境整備だけでは対策が追い付かない段階にきており、短期的には、人里近くで活動する個体数を減らす対策が必要だ。
■中長期的には未管理地の縮小なども
政府も「対策パッケージ」をまとめた。狩猟免許を持つ自治体職員「ガバメントハンター」創設へ向けた支援を初めて明記し、対策の大きな転換点となろう。これ自体は評価できるが、過疎化・高齢化で広がった未管理地の縮小など、クマが増える要因を直視した中長期的な対策を全国的に根付かせなければ、クマ被害はなくならない。
■今後も続き、中部地方や西日本でも
クマ被害は今後も続くとみられる。数年後には中部地方や西日本でも東北と同様の事態に直面する恐れがある。人ごとではない。災害に備えるのと同様の危機感で対策を講じておく必要がある。
良い餌場を見つけたクマは冬眠せず出没し続ける。早く寝てもらうためにも、残っている柿などの誘因物をなるべく早く取り除くとともに、空き地の草刈りなど、今できることを一つずつ進めてほしい。