在宅療養の現場では、高齢患者の食事量減少に伴う低栄養が深刻な課題だ。十分な栄養が取れない状態は、心身の機能が低下するフレイル(虚弱)を招き、自宅での療養生活そのものを脅かしかねない。こうした中、少量で効率よく栄養が摂取できる上、飲み込みやすさや“おいしさ”にも配慮が施された「特別用途食品」が豊かな「食」をサポートする存在として注目を集めている。 病院を退院した直後の高齢者は、ベッド上での生活が続いたことで全身の筋力が急速に衰えていることが多い。何とか食事ができても、食べ物を飲み込む(嚥下)機能が低下し、十分な食事量を確保できなくなることも珍しくない。病院では、栄養バランスや飲み込みやすさに配慮された食事が提供されるが、自宅で用意するのは困難だ。 その結果、食べられない状態が続くと、高齢者の身体に深刻なダメージが及ぶ。国立長寿医療研究センターの研究でも、朝食を抜く習慣がある75歳以上の高齢者はフレイルの割合が高いと報告される。 ■低栄養が招く悪循環を防ぐ 懸念されるのは、これが「フレイルサイクル」【図参照】と呼ばれる悪循環の引き金になる点だ。欠食による低栄養状態が体重や筋肉量の減少を招き、それに伴い食べる能力も含めた身体機能が落ち込むと、日々の活動量が減り、さらなる食欲低下を引き起こす。 この悪循環の中、低栄養が進行すると「誤嚥性肺炎」のリスクが高まる。食べ物や唾液と一緒に口の中の細菌が誤って気管に入ることで炎症を起こし、高齢者ではそれが死因になることも少なくない。もとの病気だけでなく、食事面が再入院や死亡のリスクを押し上げているのが実情だ。 ■食べきれる この課題解決に向けて期待されているのが、病者や高齢者向けに調整された「特別用途食品」だ。最大の利点は、食欲が落ちたり、嚥下機能が低下した高齢者でも無理なく食べきれる少ない量で高栄養を摂取できる点にある。例えば、50グラムで200キロカロリーを補給できるゼリーや、100ミリリットルで200キロカロリー・タンパク質8グラムを摂取できる飲料などが商品化されている。 かつては栄養を濃縮すると風味が損なわれやすかったが、企業の技術向上で劇的に改善し、多種多様な味を楽しめるようになった。医師や管理栄養士に相談した上での使用が推奨されており、病院や介護施設で使われるだけでなく、調剤薬局やドラッグストア、通信販売でも購入できる。 ■医療用栄養剤と併用も 通常の食事では必要な栄養を摂取できない在宅療養患者に対しては、医師が必要と判断した場合、保険適用の医薬品である「経腸栄養剤」が処方される。ただ、中には「毎日飲むと味に飽きる」「全部飲みきれないことがある」「液体が飲み込みにくい」などの理由で、医師の指示通りに摂取できていない人もおり、味や容量、剤型(ゼリーや粉末、液体などの形状)のバリエーションが豊富な特別用途食品と併用することで、在宅での栄養ケア、生活の質(QOL)を充実できると期待されている。 ■攻めの予防医療 後期高齢者の医療費に占める入院医療の割合が高い日本において、低栄養による再入院を防ぐことは、社会保障費増大の抑制に直結する。 日本流動食協会の市川正樹会長は「特別用途食品は、患者の生活の質を保ちながら、持続可能な医療体制を維持する『攻めの予防医療』に資する」と強調。今後の普及に向けては、医師や訪問看護師、管理栄養士らが患者一人一人の状況に応じて適切に推奨する仕組み作りや、国や自治体による購入補助といった公的支援などを提唱している。 ■公明の提案受け政府が食品表示パンフへ掲載検討 公明党は、健康寿命の延伸をめざして予防医療の充実を推進。その柱の一つに「栄養」を位置付けて、フレイル対策などに取り組んでいる。 2025年11月と26年4月の参院消費者問題特別委員会で川村雄大氏は、高齢者の低栄養によるフレイルを防ぐため、特別用途食品の活用を訴え、退院後も同食品を入手できるような周知が必要だと強調。一般の消費者向けに食品ラベルの表示内容やルールを分かりやすく解説した消費者庁の「食品表示に関するパンフレット」に、特別用途食品の詳細を掲載するよう提案した。 これに対して同庁は「在宅療養者も増えているため、掲載を今後検討する」と答えた。