統一地方選挙が来年春に迫る一方、地方を中心に議員のなり手不足に歯止めがかからない。近年の地方選では、多くの町村議会で無投票当選が相次ぎ、地方自治の機能不全が危惧されている。政治と有権者の分断を修復し、多様な民意をくみ取るにはどのような手だてが考えられるか。現状の課題とともに、打開策の一つとして「くじ引き(無作為抽出)民主主義」を提唱する同志社大学の吉田徹教授に見解を聞いた。 ■(現状)町村の無投票30% 総務省の調査によると、2023年4月の統一地方選で無投票当選となった町村議会の議員数は総定数の30・3%、都道府県議会では25%に上る。 また立候補者数が「定数+1」となり、無投票を辛うじて回避した町村は299自治体(19年から23年4月まで)と全体(926自治体)の32・3%で、無投票を加えると553自治体(59・7%)にまで及んでいる。 ■行政監視の機能不全に警鐘 24年3月の全国町村議会議長会の「議員のなり手不足対策検討会」の報告書では、同じペースで増加すると仮定した場合、27年4月までには町村全体の3分の1を超える34・1%の議会が無投票になる可能性があると指摘。議会としての意思決定や行政監視機能に大きな影響を及ぼし、議会の存続や二元代表制の趣旨が損なわれると警鐘を鳴らしている。 ■「関わりたくない」5割 ■政治不信の払拭へ住民と接点増やす議会改革を --無投票による弊害は何か。 吉田徹教授 地方選では以前から、なり手不足の問題が指摘され、放置すれば改善の見込みはない状況だ。民主主義の条件の一つとして、経済学者シュンペーターは「競争があること」を挙げた。つまり、候補者が複数存在して異なる政策や公約を提示し、有権者に選択肢を提供することが民主主義の原則となる。 無投票が常態化すれば「選挙による競争」がなくなるとともに、議員の高齢化、固定化で議会の新陳代謝が阻まれ、多様な民意が議会に反映されにくくなる。結果的に住民の政治離れや無関心を一段と深刻化させ、なり手不足を加速させる悪循環に陥り、地方自治が空洞化していく恐れがある。 --なり手不足を招く要因とは。 吉田 日本では、地方議会に対する不信が国政より高い。これは、議会としての活動が見えづらく、本来は住民に近い存在であるべきだが、そう感じられていないことに起因している。 一般の住民にとって政治家のイメージとは、自分とかけ離れた存在であり、地方議会の必要性が理解されていない。そうした中では、自分が議員の一人になろうという感覚は醸成されにくい。 実際、ある民間意識調査では5割弱の人が「政治に関わりたくない」と回答した。また、5割弱の人が国政の政治家を「自分たちの代表として思えない」と答えた調査もあり、有権者の“脱政治化”が浮き彫りとなっている。 関心を高めるには、住民との接点を増やす取り組みが不可欠だ。接点の増加が政治不信を低下させるという調査もある。 例えば北海道栗山町では、23年に議員職に関心のある18歳以上を対象とする講座「議員の学校」を開設し、卒業生のうちの3人が町議選に立候補し全員が当選を果たした。最近では、土日や夜間に定例会を開催して「住民に開かれた議会」をめざす自治体も増えてきた。こうした住民目線に立った地道な議会改革が求められる。 ■立候補のハードル下げよ ■社会全体で意欲下支え、休職制度導入し生活を保障 --多様な人材の政治参加を進めるには。 吉田 最大の障壁は、選挙に出る際のリスクを個人が負わなければならない点だ。仮に立候補したくても、自営業でない限り仕事を辞めなければならず、落選すれば生活の保障は何もない。 こうした状況を打開するためには、経団連などの経済団体が地方議会への立候補をボランティアと同様の扱いにし、企業内で休職を認める仕組みなどの導入を提唱すべきだ。ドイツでは市民参加を促す国のボランティア休職制度が存在し、会社の従業員が地域活動に従事する場合、「休職する」と申し出れば、企業や組織はそれを認めなければならない仕組みがある。 パブリック(公的)な仕事は人的・制度的な形で支えるものであり、志ある人の背中を社会全体で後押しする枠組みが必要だ。ノウハウや人脈がなくても安心して立候補でき、落選後もフォローが受けられる環境を用意すべきだろう。 --報酬引き上げなどを求める議論もあるが。 吉田 低すぎる報酬の改善は必要だが、それだけでなり手不足が解消するとは思われない。議員年金についても、議員としての職に固執することへのインセンティブ(動機付け)につながり新陳代謝を阻む恐れもあるため、慎重な議論が必要ではないか。 ■(“くじ引き民主主義”の可能性)「当事者性」覚ます一助に ■無作為で代表抽出、地域の課題、熟議で解決策 --「くじ引き民主主義」の意義と利点は。 吉田 多様な市民の政治参加を促す手法の一つであり、「二段階抽選制の市民議会」のことを指す。ただ、必ずしも既存の選挙による議会を置き換えるものではなく、くじ引きで地方議員を選ぶのでもなく、形式はさまざまだ。 基本は、無作為に選ばれた名簿に基づいて市民に通知し、応じてくれた市民の中からジェンダー、居住地、世代、職業などを考慮して母集団(自治体)と同じ構成比になるように代表を抽出する。社会の縮図である「鏡」を作り、特定の課題を議論して解決策などを既存の議会に提示するという、議会制民主主義との相互補完的な役割を担う仕組みだ。 議論の際は、専門家の意見を聴取した上で、中立的な立場から発言を促すファシリテーターの下で討論し、答申などの形で政策について意思表明する。選挙と違って党派性がないため、互いの意見を柔軟に変えながら中長期的課題についてコンセンサス(合意)を導き出せるのが大きな利点だ。 --解決の一手となるか。 吉田 欧州では珍しい存在ではなく、日本でも気候変動対策を話し合う「市民会議」といった形で導入されている。東京都では約4割の自治体で既に実践例がある。国の裁判員制度もその類似だ。 くじ引き民主主義は、市民の「当事者性」を呼び戻すきっかけとなり、多様な民意をくみ取る現実的な選択肢になり得るだろう。 政治参加への多様なチャンネルを築き、政治と生活のズレを地道に埋め、住民一人一人が共同体の担い手であるという意識を持つことこそが、なり手不足を根本的に解決する道につながるはずだ。 よしだ・とおる 1975年生まれ。慶応義塾大学法学部卒。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程単位取得退学。博士(学術)。専門は比較政治学、欧州政治。北海道大学教授などを経て現職。著書に『くじ引き民主主義』(光文社新書)など。