イラン情勢悪化に伴い、プラスチックなどの原料となる石油製品「ナフサ」の供給不安が広がっている。政府は「足りているはず」(20日の党首討論で高市早苗首相)などと強弁するが、事業者からは、ナフサ由来の石油化学製品が不足しているとの悲鳴にも似た声が相次ぐ。ナフサの供給実態などについてまとめるとともに、石油化学コンサルティング業務を手がけるクリークス合同会社の小川博之代表に話を聞いた。 ■防水など工事現場で悲鳴 都内で防水工事業を営むHさんは、マンション修繕などを請け負っており「今月は在庫でなんとかしのいでいるが、来月以降はどうなるか分からない」と嘆いた。大型連休前後から、防水材やそれを希釈するシンナーなどを発注しても受け付けてもらえない状況が続いているという。「工事ができなくなると、足場を組むとび職の人たちも仕事がなくなってしまう」とため息をついた。 これらの資材の原料は、原油から精製されるナフサ。日本は4割を中東からの輸入に頼ってきた。イラン情勢を踏まえた中道改革連合、立憲民主、公明3党による影響調査では、ナフサなどの調達が困難になりつつあるとの声が中小企業から多数寄せられていた。 ■値上げや販売休止、消費者にも影響拡大 品不足の影響は、消費者が購入する身近な製品にも広がってきている。大王製紙は15日、紙おむつなど「エリエール」ブランドの家庭用・業務用製品の全品を15%以上値上げすると発表した。ナフサ由来の素材をはじめとする原材料価格が上昇しているため。また、カルビーは「ポテトチップス」など主力14品の包装を白黒に切り替えて販売すると発表。包装の印刷用インクや溶剤の原料の調達不安が生じている。ミツカンは納豆商品の4品目の販売を休止した。 ■(中道・立憲・公明)全国で調査、対策訴え 中立公3党は、影響調査などで聴いた現場の窮状を基に、命と暮らしを守る国会論戦を展開。ナフサの供給不安を巡っては、4月の緊急提言や今月20日発表の緊急経済対策で、ナフサ由来の基礎化学品の安定供給へ代替調達など対策を政府に迫っている。 ■(専門家に聞く)クリークス合同会社・小川博之代表 ■従来水準達せず不足感 --ナフサの供給状況について。 従来通りの水準では確保できておらず不足感がある。 中東からの輸入のうち原油輸送の要衝ホルムズ海峡を通過する分は途絶。韓国も輸出を停止しており、3月は日本全体の輸入量が前年同月比で35%以上減少した。不足分は米国などからの調達が進められているが、決して十分とは言えない。 ■(各製品の原料)基礎化学品の生産減 --石油化学製品の不足が顕在化しているが。 原料のナフサ不足が前提にある。加えて、供給の先行きが不透明なため、今後に備えてナフサの在庫を確保する動きもあり、「ナフサ→トルエンなどの基礎化学品」の生産量が落ちている。当然、その先の「基礎化学品→溶剤などの川中製品」も減る。 例えば、在庫がもともと少なかったトルエンを原料とする塗料用シンナーは早々に品不足となった。 --ナフサ由来の石油化学製品について政府は「必要な量は確保されている」「年を越えて継続できる」と主張しているが。 原料のナフサが十分確保されたという意味ではなく、安心材料にはなっていない。 ナフサに由来する中間製品の在庫などを全て足し合わせると、計算上は必要量を供給できるということにすぎないからだ。それも、ナフサの不足分について、国際市場などを通じた調達が現在と同水準以上で続くことを前提とした見込みであって、供給が確約されたわけではない。 ■目詰まり解消だけでは不十分 --今後の見通しは。 イラン情勢が収まったとしても、物資の供給に余裕がない状態はしばらく続くだろう。国内では以前から業界再編が進んでおり、石油化学製品の生産量自体は減っていく方向だからだ。 石油会社にとってナフサは、ガソリンなど燃料油の連産品にすぎず、国内での大増産は見込みにくい。輸入を増やすことが重要だ。政府が進める供給の目詰まり解消だけでは、完全に品不足を解消できない。