がん治療に伴う、目や鼻といった人の目に触れやすい部分の欠損は、周囲の目線を気にして外出を控えるようになるなど、生活に大きな影響を及ぼす。そうした人の救いとなるのが、切除した目や鼻を補う人工物「エピテーゼ」だ。名古屋市は今年度から購入への助成を開始。同時に愛知県が補助自治体への支援を始めた。 エピテーゼを長年製作する名古屋市の株式会社「池山メディカルジャパン」(池山紀之代表取締役)。職人の歌岡緑さんは、シリコーン製のパーツに筆で着色する。エピテーゼは一つ一つ手作りのオーダーメード。顔の型取りから始め、数カ月かけて作る。「リアルさを追求し、目ならまつげを一本ずつ植えることもある」。数十万円するものもある。 名古屋市は、エピテーゼの購入費を5割(上限4万円)補助。がんに伴う手術によるものであれば、目・鼻・耳のほか手指も対象となる。県は以前から、がん治療に伴う医療用ウィッグ(かつら)と乳房補整具の購入費を補助する市町村に対し、事業費を支援してきた。今年度から対象品目にエピテーゼを追加。これを受けて春日井市も4月から制度を設けた。同市の助成額は2万円まで。 愛知県と名古屋市の支援実現に尽力した公明党の加藤貴志県議、月森卓也市議はこのほど、池山メディカルジャパンを訪れた。 池山代表取締役はエピテーゼ購入費の助成を「ありがたいこと」と歓迎する。同社には、製作依頼が国内外からあるという。顧客が住む自治体に購入費の助成制度があるか調べることもしばしばで「近年、人工乳房への補助は大きく広がっていることを実感するが、顔面部などのエピテーゼにはまだまだ少ない。高額なので、利用者にとって経済支援はとても助かるはずだ」と話した。 一方、県がんセンターの奥村誠子形成外科部長は、がんが完治や共生できる病へ変わってきた中で、外見ケアなど患者の「生活の質」を損なわない視点が医療現場で重視されていることを説明し、「助成は患者にとっていいこと。制度の周知が進むといい」と語った。 加藤県議は2024年2月定例会で、ウィッグなどの購入費を補助する市町村に対する支援に、エピテーゼを加えるよう要望。各市町村に対して制度の必要性への認識を調査するよう後押しした。月森市議は同年の2月定例会でエピテーゼ購入費補助を求めた。 ■作り手確保や認知度に課題も エピテーゼの購入支援をする自治体は、ウィッグなどの補助ほど広がっていないが、愛知県外でも出てきている。 東京都は昨年度から、購入助成をする区市町村の事業費を支援。がん治療に限らず、事故などによる欠損も対象だ。都議会公明党が提案した。 エピテーゼを巡る課題としては、作り手と製品の質の確保がある。池山メディカルの歌岡さんは「同業者はそんなに多くない」と話す。同社で、顔面や手指の製作を担うのは2人。国が定める資格などはなく、本格的に作り方を学べる学校もない。「事業者によって、製品のクオリティーはばらつきがある」(歌岡さん)。 義手などと違い生活機能を補うものではないこともあり、医療現場などで広く知られているとは言いがたい。エピテーゼの普及と安定的な供給に向けて、さらなる取り組みが必要だ。