この町で唯一の公明議員、たった一人の女性議員。孤独を覚えた日もあったが「忙しくて引きずる余裕はない」と笑い飛ばす。豊かな川と山々に抱かれた、山梨県市川三郷町が使命の舞台。“お母さん議員”、斉藤美佐(58)の毎日は目まぐるしい。 * 峰々の山肌が紅葉で色づき始めた今月6日、朝日を浴びて13人の児童が進む。ランドセルにぶら下げた“クマよけ”の鈴が鳴り響く。その列の中に「交通安全」のジャンパーを着た斉藤がいた。子どもを見守りながら、市川南小学校まで一緒に登校するのが毎朝の日課だ。 「将来は何になりたい?」。何気ない会話から少年少女の様子に気を配りつつ、急な坂道を登る。長年の活動に保護者からも信頼抜群。深澤純子校長は「みんな『美佐さん、美佐さん』って。子どもたちにとって家族のような存在」と。 登校後は月1回、児童に絵本を10分間、読み聞かせる。この学びやに息子たちが通っていた20年以上前から、「心を育もう」と地域の人と続けてきた。6日の朝は2年生の教室へ。表情や声色を変えて臨場感をつくり、物語の世界にいざなう。共に汗を流す加賀美文子さんは「勉強熱心で誰にでも分け隔てなく優しい」と魅力を語る。 * 斉藤は1991年、結婚を機に市川三郷の地へ。2人の子を育てながら「人の役に立ちたい」と地域貢献に挑戦。因習が残る町にあって公明党の理解の輪を地道に広げてきた。 持ち前の行動力と誠実さを推されて2018年、町議に初当選。最初は右も左も分からず戸惑い、容赦ない言葉を浴びせられて悔し涙をこぼす日もあった。だが、「住民の声を聴き、町を豊かにすることこそ私の仕事。それが公明党」と自らを鼓舞して前へ進んだ。 議会はもとより、小学校の畑の草取りや子ども食堂の手伝い、野良猫の繁殖を防ぐTNR活動、年2回主催する地域防災講座の準備など朝から晩まで予定がぎっしり。“政策のヒントは対話の中に”と毎日、地域の人や町職員ら最低15人と直接話す。夜、帰宅後は「へとへとなんです」。そんな日は、夫が用意してくれた晩ご飯がうれしい。 防災士でもある斉藤が8月に開いた13回目の講座には、地域の子どもが初めて参加。災害時の行動を整理するマイ・タイムラインを作った。念願だった。19年に台風19号が町を襲った際、小学生が家族を促し真っ先に避難したのを見て、防災教育の重要性を痛感してきたから。以来、防災・減災の充実をずっと後押ししている。 ■子育て支援、人一倍に思いを込め 斉藤は高校時代、夢だった保育士の道を経済的な理由から断念した。「短大に行かせてあげられなくて、ごめん」との亡き父の言葉を今も鮮明に覚えている。だからか、子育て支援への思いは人一倍。自身の提案で町担当課の脇に設けられたキッズスペースは、窓口から目の届く所にあり、子連れの親も職員も「安心できる」と好評だ。 とにかく子どもが大好きな斉藤。卒業式に出席すれば、感動で保護者のように涙を流す。未来の宝に尽くす日々に「すごく幸せ。夢がかなったのかもしれませんね」。ほほ笑んだ“母”の瞳は優しく、気高かった。(文中敬称略。随時掲載) ■取材後記 人前で話す際に斉藤議員は、必ず手話であいさつする。手話言語条例を制定した町の議員として「ろう者と心通う会話がしたい」との思いで。町聴覚障害者協会の一瀬いと子会長は「いつも私たちのことを考えてくれうれしい」。努力家で温かな人柄がにじむ。(晃)