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(分娩空白地帯の今=上)「地域唯一」の医院 苦渋の決断/進む少子化、経営に打撃/出産対応8割減、物価高騰も
2024年の日本の出生数は、初めて70万人を下回る68万6061人となった。少子化のあおりを受け、特に地方では分娩施設が年々減少し、集約化が進む。地域内に同施設がない“分娩空白地帯”の中で安心して出産できる環境をいかに整えるか。現場の声を基に課題と必要な方策を探った。
■伊豆半島の南部で受け入れ施設消滅
静岡県の伊豆半島南部(1市5町)で唯一の分娩施設だった下田市の臼井医院。臼井文男院長は今年1月、苦渋の決断で分娩対応を終了した。「患者にとってアクセスの負担が少ない方が良いことは分かっているが……」と語るが、これ以上の経営は限界だった。
特に大きな打撃となったのは少子化だ。数十年前に年間350件ほどあった分娩数は、近年では8割減の70件ほどに。分娩数が減っても24時間の受け入れ体制維持は不可欠で、人件費の削減は困難だった。物価高騰や医療機器の高額化も重なり、赤字額は最大で年間2000万円に上った。
臼井院長は、地方の小規模な分娩施設は「公的な補助がなければ維持できない」と指摘。一方で、今後は妊婦健診などを通じて地域を支えたいと前を向く。
■車で片道1時間超、通院の負担大きく
分娩施設が身近な地域になければ、妊婦の通院の負担は重くなる。一つの事例を紹介したい。
下田市に住む土屋夢佳さんは昨年12月、自宅から車で片道1時間10分かかる大学病院で第2子を出産した。遠方になったのは、自らの腰の持病を考慮し、いざという事態に備えて一定の設備がある病院を選んだからだ。
妊娠初期のつわりや、中期以降の腰の痛みに耐えながら、妊娠後期までは自ら運転して健診に通い「病院の待ち時間を含めると一日がかりで、くたくたになった」。出産直前まで「陣痛が来たらどうやって病院まで向かうか」など、不安は尽きなかった。
こうした不安を和らげようと、同市と周辺4町は今年4月から、事前登録した妊婦を出産時にかかりつけ医療機関まで救急車で搬送する「妊婦サポート119」を始めた。土屋さんは「遠方で出産せざるを得ない友人たちにとって大きな安心につながる」と期待を寄せた。
■交通・宿泊費助成、公明が各地で推進
出産に伴う交通費や宿泊費を助成する、こども家庭庁の事業も24年度にスタート。自宅から最寄りの分娩施設まで1時間以上かかる妊婦を対象に、往復の交通費を自己負担2割、最大14泊分の宿泊費を1泊当たり自己負担2000円とするもので、昨年11月29日時点では28都道府県の197市町村で実施されている。
公明党の地方議員は各地で、分娩施設が遠方にある妊婦を支える取り組みを推進。妊婦健診の通院費用助成や、出産時の救急車での搬送などが各地で広がっている。