文化・芸術、スポーツ、キャンプ……。子どもの頃からのさまざまな体験は「生きる力」の礎になるといわれる。家庭の経済的事情などで、体験機会が乏しくなっている子どもも少なくない中、さまざまな団体が取り組みを進めている。 「ぼよよん行進曲を一緒に声を出して歌ってみましょう!」。オペラ界の第一線で活躍する歌手の北川辰彦さんが呼び掛けると、「あっ、知ってる曲だ~」と歓声が上がった。4日、東京都新宿区の音楽スタジオで行われたオペラコンサートの一幕。幼児と保護者11組が参加した。モーツァルトの「魔笛」などを披露した北川さんの歌声に、子どもたちは目を輝かせて聞き入っていた。 母子家庭で育つ小学1年生の加藤愛ちゃん(仮名)は「歌うのが好きで、とっても楽しかった! また来たい!」と声を弾ませた。母・幸子さん(同)は「オペラは敷居が高いと思っていたし、普段は触れることがないので、子どもにとっていい機会になった」と笑顔を見せた。 この催しは認定NPO法人「キッズドア」が企画。同法人では年間100回程度、子どもと保護者が参加できる体験イベントを開催している。 こうした取り組みを企画する団体は多い。近年の物価高騰により、困窮する世帯が増加していることが背景にある。 ■“経済的理由で断念”多く 公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンは2022年に、全国の小学生の保護者2097人を対象に、子どもの体験格差に関するアンケート調査を行った。それによると、年収300万円未満の世帯で体験活動を諦めた理由の1位は「経済的な余裕がない」で56・3%に上った。同600万円以上の世帯の16・9%と比較すると、3倍以上になっている【グラフ参照】。 ■自治体でも 全国の自治体でも、子どもたちにさまざまな体験の機会を提供する取り組みが進む。 長野市では、保護者の所得にかかわらず市内在住の全小中学生に一人当たり3万円分の電子ポイントを付与。このポイントを、スイーツ作りやキャンプ、スキー教室といった体験や、英会話、学習塾といった習い事などに利用できる事業を23年から実施している。16日現在、1200種類以上のプログラムから自分の興味があるものを選べる。公明党市議団が議会質問や要望活動で推進してきた。 ■公明、舞台鑑賞の支援など実現 公明党は子どもの体験機会の充実に長年、取り組んでおり、トップレベルの舞台芸術の団体による学校巡回公演などの拡充を実現してきた。 1月29日の参院代表質問では、公明党の竹谷とし子代表代行(当時)が、官民が連携して体験活動の機会の充実や経済的な負担軽減・無償化に取り組むことで「家庭の状況にかかわらず、全ての子どもたちに体験活動の機会をしっかり保障すべきだ」と訴えた。 21年度から始まった文化庁の「劇場・音楽堂等における子供舞台芸術鑑賞体験支援事業」も文部科学部会長だった浮島智子衆院議員(現・中道改革連合)が創設を提案し、実現。子どもが無料で本格的な会場で舞台公演を鑑賞できるようになり、喜ばれている。 ■党内にPT設置 公明党は今月1日、青少年健全育成のためのプロジェクトチーム(PT)を設置。今後について、座長の下野六太参院議員は「全ての子どもに対する、体験機会の創出に向けた支援策を政府に訴えていきたい」と語る。 ■“格差”生じぬよう施策さらに/一般社団法人家族・保育デザイン研究所 汐見稔幸代表理事 子どもは幅広い体験の中で、“しなやかに、たくましく生きる力”とも言うべき「非認知能力」を育む。学力のように点数で数値化可能な正解への接近力とは違い、好奇心や協調性、やり抜く力といった数値化できない人間力だ。正解のない問いに対して適切解を見つける力とも言えよう。 親に経済的余裕がない家庭では、子どもに十分な体験をさせる余裕がないため、裕福な家庭の子どもとの間に格差が生まれる可能性がある。また、親が子ども時代にさまざまな体験をしていない場合、自分の子どもに体験をさせる動機が湧きにくく、“格差の再生産”になりやすい。 こうした体験格差が生じないよう、家庭の経済状況にかかわらず、全ての子どもに向けて多様な体験の機会をつくる施策を政治の力でさらに充実させてほしい。