「令和8年熊本地震」の発災から、あす28日で1カ月。被災者の中には地震や避難生活の影響で心の不調を来している人も少なくない。東北大学災害科学国際研究所准教授で、被災地の心のケアなどを担う災害派遣精神医療チーム(DPAT)としても活動する國井泰人氏に、心の健康を守るためのポイントを聞いた。 ■人との交流が不調防ぐ/SNSの見過ぎで不安増長も --震災から1カ月。被災者にはどのような心の不調が見られるか。 発災直後は身の回りの安全を確保することで精いっぱいだが、数日後には“頑張ろう”という心の高まりが生じる。1カ月が経過する今ごろになると、避難生活の疲れや生活再建に向けた不安により、徐々に気持ちが滅入ってきて、うつや心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの心の不調が表面化する人も出てくる。故に、これからのケア、支え合いが大事だ。 --心の健康を守るためにできることは。 最も重要なのは、コミュニケーションを増やし“孤立”しないことだ。人との交流が、不調を防ぐ大事な手立てになる。東日本大震災後の調査では、交流が多い人の方が不眠や抑うつ、PTSDなどになりにくいことが分かっている。体の健康がメンタルヘルスにもつながるため、食事、睡眠などの生活習慣を安定させることや適度な運動も大切だ。 また、ニュースやSNSを見過ぎないようにしたほうがよい。災害のトラウマ(心的外傷)が思い起こされることに加え、SNSの真偽不明の情報などで不安が増長される危険がある。 周囲の人は、被災の体験を無理に聞き出したりせず、本人が話したい時に耳を傾けるようにしてほしい。心の負担の大部分は、どうやって生活再建をしていこうかという不安だ。具体的な生活の課題を一つ一つ解決することが、心のケアにつながる。適切な相談窓口につなげるなどのサポートが大切になる。 ■食事、会話の減少など「サイン」を見逃さないで --心の健康を損なうリスクが高い人は。 元々精神疾患のある人に加え、高齢者や子ども、妊産婦や障がい者などは特にリスクが高く、注意が必要だ。能登半島地震の事例では、発災後2~4週間で、高齢者のせん妄や不眠、避難所での問題行動などが増加し始めた。見かけは落ち着いていても食事量や会話が少なくなっていれば心身に不調を来している「サイン」だ。見逃さないように注意を払ってほしい。 --子どもは。 いつもと違う様子に気付いたら、否定せずに寄り添い、しっかり話を聞いて受け止めてほしい。できるだけ早く、学校など日常の生活に戻すことも重要だ。集団活動をしたほうがメンタルヘルスの予後が良くなるとのデータもある。 「地震がきた」などのごっこ遊びを繰り返す行為は、回復する過程での心の処理の仕方なので、無理に止めないことだ。 忘れられがちだが、行政の職員など支援に携わる人のメンタルヘルスにも留意する必要がある。 --心の不調が長期化していく可能性は。 これから、被災者の生活再建への負担は大きくなる一方で、報道などは減っていく。そのギャップが心のつらさとなって現れてくる。東日本大震災では、仮設住宅から復興住宅への移転など、環境が変化するタイミングで、メンタルヘルスが悪化する傾向も見られた。 行政などの支援者には、長い目で被災者の心の健康に寄り添っていってもらいたい。 ■心身の回復に向けて 東北大学災害科学国際研究所では、東日本大震災後の健康調査のデータから「被災後ケア ココロとカラダを回復させる10のこと」として、気を付けたいポイントをまとめている【イラスト参照】。 飲酒量の増加が睡眠や心に悪影響を及ぼすことや、歩く習慣が少ない人に不眠、抑うつといった症状が多く現れることなどが強調されている。 睡眠不足も心身に影響を及ぼすため、不眠の傾向が続く場合は、眠る前に数分間の「腹式呼吸」を行うことも効果的だとしている。呼吸や体の感覚に意識を向けることで心が静まり、眠りやすくなるという。 くにい・やすと 福島県立医科大学卒。医学博士。精神科医。2020年4月より現職。24年の能登半島地震では、DPATの一員として被災者の心のケアを担った。