けがや病気、高齢などで心身の機能が低下した人に対して、再び自立した生活を送れるように支える「リハビリテーション専門職」。この夏、愛知県豊明市にある藤田医科大学病院を訪ね、リハビリの現場を取材した。そこには、患者の“回復を諦めない”という思いに応えようと奮闘する人々の姿があった。(文・写真=高橋悠斗、動画=比義広太郎) ■立つ、座る、歩く(理学療法士) 藤田医科大学病院のリハビリテーションセンターを訪れると、広い空間に平行棒や先端機器など豊富な設備が整い、多くのリハビリ専門職が働いていた。その一人、理学療法士の井澤翔さんは語る。「病気などでこれまで当たり前にできていた日常の動作が突然、できなくなり、不安を抱く人は多い。私たちはそんな患者さんに寄り添い、回復への道筋を“二人三脚”で歩んでいく」 理学療法士は、立つ、座る、歩くなどの「基本動作」の回復や維持をサポートする専門職だ。例えば、脳卒中の後遺症で半身まひになった場合、以前とは体の使い方が変わる。「歩くと膝が折れてがくがくしてしまう。理学療法士は、足の動かし方をさまざまな道具を活用しながら伝える」 そう言って井澤さんは、歩行練習支援ロボット「ウェルウォーク」を操作し見せてくれた。この先端機器を使えば、自分が歩く様子が画面に映り、第三者視点で自分の動きを確認しながら、足を曲げたり伸ばしたりするタイミングなどを覚えることができるという。 実は井澤さん自身も、高校時代に病気で入院し、理学療法士に支えてもらった経験があり、「自分も患者さんの心身の回復を温かくサポートできる存在になれたら」と日々、患者と接している。 ■食べる、着替える、暮らす(作業療法士) 基本動作の回復を支える理学療法士に対し、食事や着替え、入浴、トイレなどの「応用動作」の回復や、心のケアを担うのが「作業療法士」だ。現場を訪ねると、作業療法士の遠藤美奈さんが、リハビリで使用する補助機能付きのスプーンや箸、着替え練習用の衣服などを見せてくれた。 「患者さんが日常生活に戻れるように、希望する生き方を選べるように、その方法を一緒に考えている」 未就学児から99歳まで、幅広い世代にリハビリを提供してきた遠藤さんだが、特に印象に残る出会いがある。 病気で半身まひになった演劇役者Aさんを担当した時のことだ。Aさんの入院期間は約1カ月で、リハビリを直接提供できたのはその間のみだった。「足は動いたが、手や指は少ししか動かない状態。リハビリは継続期間によって、その後の体の動きが変わってしまう」。遠藤さんはAさんのこの先の人生を見据え、退院後のための自主練習用のプログラムを、思いを込めて作り提供した。 すると、退院から数カ月後。Aさんから「舞台に復帰したから見に来ませんか」と招待の便りが届いた。舞台当日、客席から遠藤さんが見守っていると、元気に腕を動かし、踊るAさんの姿が。「退院後からが患者さんの本番。提供したプログラムが役に立ってうれしかった」。当時を振り返り、遠藤さんはほほ笑む。 ■話す、聞く、飲み込む(言語聴覚士) 言語機能が損なわれる失語症、発音がうまくできなくなる構音障害など、話す、聞く、飲み込むといった機能に障がいがある人に対してリハビリを提供する専門職もある。言語聴覚士だ。発声、摂食の訓練をはじめ、補聴器や人工内耳の調整、言葉の発達が遅れている子どもへの支援などを行っている。 言語聴覚士の樋口明香さんが失語症の人に訓練を行う様子を取材した。 「今から私が一つの単語を言いますので、そのカードを指さしてください。じゃあ“時計”」。樋口さんが説明すると、患者は、テーブルの上に並べられた6枚のイラストカードを見比べた。時計が描かれたカードを指さす。「合っています。次は……」。一連の流れを繰り返していく。 訓練終了後、樋口さんは語った。「失語症は徐々に回復することが多い。一度、単語を理解・発声できても、次の訓練でもできるとは限らない。だからこそ短期ではなく年単位での改善をめざす」 ほかにも、病気などで食事を飲み込めない患者とも接する。この場合、発症直後はチューブで胃や腸へ直接栄養を送る経管栄養を行う。だが、経管栄養でおなかが満たされても「口で食べて味わいたい」との気持ちは消えないという。 樋口さんはしみじみと語る。「リハビリを続けて回復した患者さんが、しっかり口から食事をしているのを見た時の、『ああ、おいしい』って染みたような顔が忘れられない」 ■国家戦略として推進へ/公明、厚労省「調整室」を実現 リハビリ専門職が活躍する場は、医療、介護、障がい福祉にとどまらず、就労支援、社会参加、地域づくり、教育など多くの分野に広がっている。こうした状況を踏まえた公明党の訴えを受け、厚生労働省は今年5月、分野の垣根を越えて横断的にリハビリ政策を進める「統括調整室」を設置。関係部局の連携や調整を図りながら、専門職を有効に活用し、リハビリを“国家戦略”として推進していく。 従来は、リハビリ政策を巡る政府の担当部署が複数に分かれ、体系的かつ横断的に政策を推進することが難しい状況だった。そこで、公明党の山本香苗衆院議員は党地方議員とも連携し、関係者の声を聴きながら、リハビリ政策を統括する部署の新設を推進してきた。 今年2月の衆院予算委員会では、「リハビリを健康寿命延伸、社会保障改革、関連産業の育成、国際展開まで含んだ国家戦略として、省庁横断的に強力に推進を」と主張。高市早苗首相から「とても良いご提案。関係省庁が緊密に連携して取り組んでいく」との答弁を引き出していた。 山本氏は語る。「日本は世界有数のリハビリ大国であり、世界に誇る私たちの財産だ。けがや病気からの回復だけでなく、その人らしく生きる力を取り戻し、人生、社会を前に進める力がある。国家戦略として、リハビリの可能性を広げる取り組みがさらに進むよう力を尽くしたい」 ■人の活動を支えることが使命/藤田医科大学 大高洋平教授 約半世紀の間に人類は30年以上も寿命を延ばし、その中で「歩く」「食べる」「考える」といった人の基本的な「営み」「活動」を阻む障害に直面するようになってきた。リハビリテーションの使命は、この人の「活動」を支えることにある。まさに「活動の医学」だ。 従来の医学は、病気を治し、生存することに力を注いできた。だが実際は、病気が治っても健康ではない人が少なくない。この人たちが健康的な生活に戻れるように支えることが重要だ。 さらに言えば、仮に病気が完治しなくても、生きていく道はあるというのがリハビリの考え方だ。病気の後遺症で右手にまひが残ったならば、左手を以前よりも上手に使えるように支える。まひが残る腕を訓練によって機能的に改善させていく。病気の有無にかかわらず、人の活動を支えるのがリハビリの役割だ。 ■世界に類のない水準 日本のリハビリテーション医学は、世界に類のない水準とされる。急性期、回復期、生活期の全ての段階でリハビリが提供でき、医療制度や協業体制、ロボット開発、専門職の数などにおいても先進的と言える。 こうした中、厚労省に「統括調整室」が設置されたことも評価している。従来は国として、リハビリ政策の“あるべき論”、大きな方向性が示されていなかった。 超高齢化社会を迎え、暗くなりがちな日本にとって、リハビリテーション医学には社会を明るくする力がある。今後も産官学で連携し、日本のリハビリ業界が成長・発展することを願っている。 ご感想はこちらから https://digital.komei-shimbun.jp/movies/movies-originals/rehabilitation-professional